第28話 誰か私にクスリを その2

「だああ!めんどくせえんだよお!!」



 某プリンスホテルの一室に響き渡る、酒田の叫び声。


「なんで余計な事するんだよチキショウ!こっちはのんびりしたいってのに何もできやしないじゃねぇかあのバカップルめ!」


 こんな様子を見て、この人を教師と分かる人は果たしているのだろうか。






 いや、いるわけがない。

 そう言い切れるくらいに、酒田は荒れていた。

 しかし、いくらなんと言おうとも彼女はあくまで引率している教師であって、自分のクラスのことの全責任を負う義務がある。

 残念ながら、逃げるすべはなく。


 観念して、政信とちとせ、それに武弥と彩希のいる部屋へ向かうのだった。






<Side 政信>


 夕食が終わり、売店でお土産を買う。

 先程までではないが、俺たちの間には微妙な雰囲気が流れていた。

 その空気から逃げるように、さっさと買い物を終わらせて部屋に戻る。


 部屋に戻って少しすると、彩希さんが慌て気味に部屋に入ってきて。


「ちとせちゃん!ちょっと来て!」

「さ、彩希ちゃん?」

「いいから早く!」


 言うが早いか、ちとせは引きずられるようにして何処へ連れ去られていった。

 なんだろうかと訝しんでいると、少ししてちとせと彩希さんが戻ってくる。

 しかし、ちとせの顔は少し赤らんでいた。

 不思議に思った俺が話しかけようとしたその時。


コンコン。


「お〜い、失礼すっぞ」


 ノックの音ともに、我らが担任、酒田先生の声が聞こえてくる。

 慌てて扉を開けると。


「お、井野か。高山、川口、大塚の3人もいるか?」

「いますよ?」

「なら話が早い、ちょっと入らせてもらうぞ」


 そう言って入ってくる酒田先生。

 そして全員をその場に座らせると。


「あたしは別に不純異性交遊がどうとか言うつもりはないし、そもそも校則にそういったことは一切ないから別に全然ヤッても構わん。だが時と場所くらい考えろ。背景事情は知らんが、余計な仕事を増やすな。……まったく、空き部屋あったからいいものを」

「え?」

「川口と大塚は別部屋に移動だ、カードキーはこれだからなくすな」

「あ、ありがとうございます」

「それと、お前ら4人には少々注意しなきゃいけないことがありそうだからな、それだけは言わせろ」

「はい」


 いろいろ小言を言われそうだが、俺たちはカップルごとに二人で部屋に泊まることになったようだ。

 そして、冒頭飛び出した謎フレーズ。


 これから起こりそうなことが、なんとなく予感できる気がした……。

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