第2話 長い道のりもあっという間に その1

 後ろから声をかけてきた2人の正体を瞬時に悟り、振り向きざまに声をかけた。


「おはよう、武弥。ずいぶん早いね、出発までまだ10分以上あるよ」

「お前らも同じだからな、それ。大体遅刻したらまずいだろう。あと一応ここ駅だから。ホームの上だから。ちょっとは自重しろ」

「十分自重してるけどな」

「バカ野郎、イチャイチャすんなって意味だよ」

「そういうことか。…席は向かい合わせの4人がけでいいんだよな?」

「それでいいぞ」

「おけ。山側だから富士山が見えるけど、誰が窓際に行く?俺は通路側でもいいけど」

「政信、私も何度も乗ってるから富士山はいっぱい見てるけど」

「そうなんだ〜、じゃあ私窓側行くね!」

「武弥はどうする?」

「窓側行って向かい合わせになるもよし、通路側で隣同士になるもよし、か。どうしたもんかねぇ」

「帰りも同じなんだから行きは窓側で行けば?」

「そう言われてみればそうだな。よし、俺も窓際に行かせてもらうよ」


 そこまで話したところで扉が再度開き、清掃の終了と乗車可能になったことを知らせる。

 速やかに車内に入り込むと、座席を回転させて4人がけを作り、窓側が武弥たち、通路側が俺たちで座る。


「まず最初に朝ご飯を軽く食べて、その後ゲームでもして遊ぶか。時折車窓を見つつだけれど」

「良いんじゃないか?車窓と言っても富士山くらいだろ?」

「そうとも言う」

「じゃあじゃあ、トランプやろうよ!私持ってきてるもん。いいでしょ、ちとせちゃん?」

「持ってきてるのトランプだけ?」

「そんなわけないでしょ。ウノとか他にも色々持ってきてるよ?」

「やっぱりね。……とりあえずトランプでいっか」


 少し呆れながらも返事を返したちとせに対し、大喜びの沙希さん。

 さっと取り出すと、パパっとカードをきって配り始める。


 やるのは一番オーソドックスなババ抜き。

 よく運ゲーだのなんだのと言われることも多いが、これは大変難しい心理戦の一種である。

 勝つためには、相手の表情から正確に読み取り、さらにそれの真偽も見抜かなければならないというものである。

 逆を言えば、これが得意な人が一人だけならその人が常に圧勝する。

 実際に、俺がババ抜きで負けたことは1回もない。

 ただし、これが2人以上いるとお互いに読み取らせまいと頑張るあまり、なかなか決着がつかなくなる。

 そしてちとせは、俺と同じくらいか、それ以上にこういうことがてきる。


 なにか嫌な予感がしつつも、ババ抜きを始める俺、呆れた表情を見せながらも内心とても嬉しそうなちとせ、そして純粋に楽しんでいる武弥たちであった。

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