第4話 長い道のりもあっという間に その3
白熱した言い合いを抑えるいちばん簡単な方法は。
甘いものと甘い言葉である。
経験則に従えば、ちとせは甘いものと俺の甘い言葉には目がない。
他の男子にいくら甘いこと言われてもブチギレるだけだが、俺の場合はすぐに顔が蕩け始める。
アイスも準備できたので。
「ちとせ、喧嘩してるのもいいけど、そろそろご飯食べよう?アイスもあるし、もっとちとせと喋ってたいなぁ」
たったこれだけの言葉で、頬が緩むのだから、だいぶちょろいものだ。
自分以外のときはこうはならないという事実に、優越感を覚える。
「そっか〜、アイスがあるんだ。……彩希ちゃん、無駄な争いはやめて食べようよ」
「なっ!ちとせちゃんが仕掛けてきたんでしょうが」
「元はと言えば彩希ちゃんが煽ってきたのが原因じゃない」
「ふたりとも、俺たち二人で全部食べちゃっていいか?」
「「ダメ!」」
「じゃあ大人しくしてくださいな」
「はーい」
大人しくなったところで駅で買ってきた軽食をつまむ。
一通りなくなったところでアイスに差し掛かった。
予想通りちとせと彩希さんはスプーンで掬おうとして。
ガツン!
ガツガツ!
スプーンが反発をくらい、まったく刺さる気配がない。
そのあまりの硬さに驚きで固まるちとせと彩希さん。
その驚く顔は本当にいつまでも見ていられるような顔だったが、ネタバラシをすることにする。
「あれ?これものすごく硬い?」
「フッフッフ、これぞ東海道新幹線の名物、名付けてシンカンセンスゴイカタイアイスだ!その名の通り、あまりの硬さにスプーンでは掬うどころか、削ることすらままならないのだ!」
「じゃあこれ食べれないの?」
「安心しろ、時間が経てば普通のアイスくらいの硬さになる」
「ふーん、じゃあそうなるまでの間は何をする?」
「食べ終わるまでは雑談してればいいんじゃないか?」
「そうだな、ついでだからこの間の続きを聞かせてくれ。結局のところどうなったんだ?」
「それ、私も気になる!」
あまり人に話したい内容ではないが、このふたりには協力してもらってるし、口も硬いので。
あのあと発覚した事実含め全て語った。
千春はどちらかといえば被害者側だったこと、まだ許すまで入ってないものの、これまでとは違い、そこそこ話したりするようになったことを伝えた。
さらに、今度は邦彦単体をひたすら叩く方法も考えているということも伝えた。
「そっか。……千春さんは、そこまで悪い人じゃなかったんだね……」
「だが、よりを戻そうとかはまったく考えられないけどな。今はちとせっていうかけがえのない愛しい人が隣りにいてくれるから」
「政信……」
「はいはい、すぐに二人だけの世界を作ろうとしない!それに、そろそろアイスもいい感じに柔らかくなってるんじゃない?」
彩希さんに言われて確認すると、ちょうどよい柔らかさになっていた。
「いい感じだね。食べようか」
4人でもくもくとアイスを食べ始めるのだった。
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