第31話 もう一つのバカップル その1
政信たちが無事(?)結ばれ、大人の階段を登っていた頃から少し遡る。
武弥たちは、部屋の移動をしていた。
急遽の部屋移動である、広げていた荷物を慌ててカバンに放り込んで移動してきたから、まずは荷物の整理からである。
幸いなことに、部屋は同じ階の端っこだった。
もっとも、酒田先生の部屋の隣ではあるのだが。
「さっきまでの部屋よりは狭い、かな?」
「それでも二人で使うにしては広いよ。ベッドも3人分あるし」
「あ、そっか、さっきのは4人部屋だったのか」
「そうだよ〜。もう、武弥ってば、疲れてる?」
「ああ、色んな意味で」
武弥ももちろん疲れていた。
彼らの共通の悩み事は、やはり政信とちとせのことである。
政信とちとせがなかなか最後の一段を上りきらないのがずっと悩みだった。
そういう武弥たちはというと、交際開始から実に5年ほどが経過した高1になって、ようやく最後の一段を登ったわけだが。
しかし、まさか小学生や中学生の段階で上がるわけにも行かず、お互い我慢していたというのが正しい。
もちろんふたりとも、政信とちとせが巻き込まれた事件の事は知ってるし、それがふたり、特に政信が最後の一段を登らないように縛っているというのは良くわかっていた。
それでもいつかは登るだろうし、何よりちとせが先に我慢できないだろうと予想はしていた。
結果として嫉妬心からの今日のこの状態に繋がったわけだが。
そして彼らは今、ベッドに二人揃って寝っ転がり。
パソコンの画面をじっと見ていた。
画面には、さっきまでいた部屋、つまり政信とちとせのいる部屋の様子がリアルタイムで映し出されている。
実は武弥、去り際に政信たちの部屋の机の上に小型カメラをわざと忘れてきたのだ。
もちろん起動させた状態である。
目的は彼らがちゃんと登るかどうか確認するためである。
しばらく見ているうちに。
「あ、ちとせちゃんが出てきたよ」
「ほんとだな。よし、一旦見るのをやめよう。20分くらい待てば一つになってるだろうし」
そう言うと、武弥たちは荷物の片付けに取り掛かった。
荷物を片付け、まだカバンの中に入れられないもの以外は全てカバンの中に入れる。
ようやく終わる頃には30分が経過していた。
ふと彩希が画面に目をやった、と思うと次の瞬間、彼女は顔を熟れたトマトのように真っ赤に染め上げ思い切り背ける。
「彩希、どうした?」
気になった武弥が問うと、彩希はたったひとこと返す。
「心配して損した」
「どういうこと?」
彩希は言った。
「発情してる猫のカップルだわ、これ」
武弥はちらっと画面を見て瞬時に状況を理解し。
なんとも言えない複雑な表情を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます