第16話 【悲報】政信、死亡の危機 その4
政信がICUに消えてから、1時間ほど経ったころ。
廊下の先から速歩きで迫ってくる足音がふたつ。
言わずもがな、ちとせから連絡をもらいすぐに駆けつけてきた母と仕事を抜けてきた父である。
「ちとせちゃん、お母さん来たよ」
「……」
彩希が声をかけるものの、ちとせは崩れ落ちたまま放心状態。
何よりも愛する政信が倒れた上、ICUに吸い込まれる直前のあのひとことが決定打になった。
『心肺停止!』というその声はちとせにすれば地獄の宣告に等しい。
心肺停止状態から帰還するのはどうしても難しくなってしまうからだ。
そしてそこまで考えたちとせが放心状態になることまでも予想していた母。
ちとせに歩み寄り、反応がないのを確認した瞬間。
パチン!
ほっぺたに勢いよく平手打ち。
そしてさすがのちとせが気づき母親の顔を見た瞬間に、顔を手で包み込み。
「政信くんが倒れたからってちとせまでそんなになっちゃてどうすんの!あなたが政信くんを愛するならやることはひとつでしょう。政信くんが目を覚ましたときに笑顔で迎えてあげるのよ。あなたがずっとそんなになってたって知ったら政信くんがどう思うか分からないの?」
「……そっか、そうだよね。笑顔で待ってないとだもんね」
「分かったならいいわ。ところで今どんな感じなの?」
「未だに全く出てくる気配がないの。最後に見たときはICU入るときだし、そのときに心肺停止って聞こえたから」
「そう。とにかく今は待ちましょう」
それから待つこと2時間。
手術中のランプが消え、ようやく医師が出てきた。
「井野くんのご両親ですか?」
「違いますが、今は代理です」
「どういうことでしょうか?」
「ママ、政信の親の代理って?」
「あなた達が生まれたときに約束したの。どっちかになんかあったときはもう片方が親となるって。今は海外にいてすぐには帰ってこれないから、帰ってくるまでは私達が代理なの」
「そういうことですか。それでは話が長くなりそうですので、ついてきていただけますか?」
そう言って連れてこられたのは診察室。
「病状の前に聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ええ」
「井野くんですが、おそらく数日前からかなり体調が悪かったと思うのですが心当たりはございませんか?」
「明らかに顔色悪いのに本人はちっとも気づいてなくてなんども指摘しました。でも痛みとか何も感じてなかったようです」
「ではもう一つ、ここ最近でストレスを感じたりは?」
「たくさんしていると思います。特にここ最近は浮気問題に巻き込まれてましたから」
「そうですか。だとすると説明できますね。まず病状なんですが、現在も昏睡状態が続いています。いつ目を覚ますかは分かりません。正直言ってもう目を覚まさない可能性も高いです。五分五分といったところですね。原因は過労、疲労蓄積、ストレス過多の3つで、重度の胃潰瘍なども確認されています」
「胃潰瘍ってどのくらいからあったんでしょうか」
「あくまで推測になりますが、少なくとも数日前から動くどころか何してても、睡眠中でもずっと激痛が走るような状態になっていたかと思います。こちらの写真が搬送時の胃の様子です。白いところが胃潰瘍になっている部分ですね」
そう言って見せられた写真の、あまりの白い部分の多さにだれも声が出せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます