第40話 京都、地元民と一緒で。その3


 伏見稲荷大社は、山そのものが神社になっている。

 だから、参拝するということは、すなわち登山を意味する。


 勿論、往復は標準で2時間しかかからないという良心的設計(?)の山ではあるが。


 だが、登山は登山である。

 学校の制服、かつローファーの格好の俺たちには、少々、いや大変不向きであった。


 それでも無事頂上までたどり着いた俺たちは、少し休憩を入れることにした。

 一応こうなることを見越して予定は組み立てていたし、清水寺からの移動のときに乗った電車は、予定より36分早い電車だった。


 だから、別に余裕がないわけではない。

 けれど、この後大阪を経由して神戸へ移動することを考えれば、少々早めに移動しておきたいという気持ちも多少はあったものの。


 疲労に打ち勝つことはできず、結局ゆっくりすることになったのだった。


 30分ほど休み、俺たちは下山を開始した。

 上るときに通らなかった方の道を使って、ひたすら降りてゆく。

 相変わらず、たくさんの鳥居が立ち並んでいる


 時間が経てば経つほど、参拝客、またの名を登山客が続々と増えていく。

 道は決して広くなく、今でこそちゃんと通ることはできるが、それもそのうち難しくなるだろう。


 結局また1時間ほどかけて、麓まで戻ってきた。

 下の方は、頂上の方とは比べ物にならないくらいの人でごった返している。

 もっともその大半は、俺たちみたいに修学旅行できている生徒のようであるが。


 たくさん歩いた俺たちは、10月だというのにかなり暑く感じていた。

 そんななか、参道に出たところであるお店を見つける。

 その旗に書かれた文字を読んだ俺は、迷わずちとせに声をかける。


「なあ、あそこの旗読めるよな?」

「うん。宇治抹茶ソフト、でしょ?」

「暑いし、みんなで食べるか?」

「賛成!せっかくここまで来たしね、食べなきゃ損だもん」

「彩希に賛成。わざわざ京都に来て、宇治抹茶を目の前にぶら下げられたら敵わん」

「目黒さん達も食べる?」

「<せっかくですから私たちも>」

「ああ、勿論だけど奢らないからね?」

「<なんでぇ!?>」

「当たり前だろ。いくら仲が良いとはいえどライバル校の生徒なんだから、奢ってたまるかっての」

「<そ、そんなぁ……>」

「おい、その嘘泣きはやめろ」

「<ちっ、バレちゃったか>」

「……この野郎……」


 不穏なやり取りもあったものの、なんだかんだでみんなで宇治抹茶ソフトを食べることになった。




「ん〜〜〜!冷たくて苦くて美味しい!」

「はぁ〜〜〜、この苦さがちょうどいいんだよなぁ……。そしてお茶の香りがやっぱいいねぇ」


 俺たちが食べている宇治抹茶ソフトは、これでもかというくらいに宇治抹茶の主張が激しい。

 なにせ緑色の抹茶ソフトの上に、抹茶がかけられているのだ。

 さらに俺は、宇治抹茶ラテも注文していた。

 宇治抹茶づくしの超贅沢ティータイムである。



「やっぱ東京で食べるのとは風味が違うな。ところであんまり時間がないから、食べながら駅向かったほうが良いんじゃ?」

「確かにそうだな。ひとまず駅まで移動するとするか」


 何度も言うようだが、決して時間があるわけではない。

 早く行けるのならば早めに神戸に出ておきたいから、俺たちはソフトを食べながら、ゆっくりと伏見稲荷駅まで歩いていくのだった。

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