第5話 ふたりっきりの放課後 その4
それから程なくして。
車掌による人数確認と乗り換え客の数の確認が済み。
応援の係員も到着し。
「それでは増2号車の皆様、増1号車の運転台より線路にお降りいただきます。お降りになられましたら、1号車方面へお歩きください。車両先頭部に係員がおります。係員の指示に従い上総一ノ宮駅までお歩きください」
とはいえ車両の中には俺たちを含めて数名ほどしかおらず、あっという間に降りる順番が来てしまった。
人生初となる乗務員室への立ち入り。
そしておそらくほぼ確実に二度と無いであろう乗務員室から線路へ降りたうえでの線路上の歩行。
期待に胸を高ぶらせながら(超不謹慎なのは自覚しているが)、慎重にはしごを降り線路に降り立つ。
しばらく歩いていくと、パトカーや救急車が来ているのが見える。
「隣の線路の端の方をお歩きください。上総一ノ宮駅の手前の橋の部分からは橋の手前におります係員の指示に従って渡ってください」
その指示を聞きながら線路の反対に渡り、歩いていく。
そして車両の先頭部が見えた時、あまりの惨状に驚いた。
「こんなにひどかったのか。そりゃ歩くしかないな」
ふつうの車にぶつかったようだが、車はひしゃげており、電車はスカートがなくなっており、また連結器などが大破している。
幸いなことに車体部は見た感じ傷はないものの、いかんせん下がひどい。
そんな惨状を横目に見つつしばらく歩き、係員の指示を聞きながら橋の上を渡り、上総一ノ宮駅のホームに着いた。
2・3番線ホームの端っこの階段を登り、跨線橋を使って改札を目指す。
ピッ。ピッ。
二人のSuicaを当てた音が鳴り、無事改札外にでたところで。
「「ふぅ〜」」
二人同時にため息が漏れる。
「いや〜、意外と歩きづらかったね」
「石の上だしな。当たり前だけど足元ががたがたして歩きづらかったかもしれん。でもなんか楽しかったな」
「ふふっ、政信らしいね。とりあえずそろそろ閉店時間が近づいてきてるからスーパー行こっか?」
「そっか。じゃあちょっと早めに歩こう」
その後。
野菜やら肉やらをそこそこ買い込んだ俺達は、家までてくてく歩いて帰ってきた。
ガチャリ、と鍵を開け荷物をおきつつリビングへ移動し、冷蔵庫に食材を詰めていく。
一通り詰め込み終わったところでジュースを取り出してグラスに注ぎ。
テーブルのいつもの席に座って一息つく。
「ふぅ、帰ってこれたな」
「だね。今日もお疲れ様、相変わらず部活では毒舌だったけど」
「だってさ、もう7月に入ったんだぞ。3週たったら定期演奏会だし、その2週後にはコンクールもある。しかも今回はその後にダンス部の方もあるし」
「そう言えばそうだったね。いつもダンス部と吹奏楽部に半分ずつ行ってるもんね」
「そう。どっちも一部の指導をしてるし、なんなら一緒に踊るし。ちとせも明日から俺とおんなじ感じで動くんだっけ?」
「そうそう。2年生代表になったけど、あくまで私は政信の抑え役みたいな感じで選ばれたし、ホントは今年は辞めてるはずだったしね。だからコンクール関係のときはある程度までやるけど、それ以上はやらないし、当然選ばれることもない」
「そう言えばそうだったな。でも演奏会系はほんとちゃんとやってくれててそこはちゃんとメリハリを持ってて嬉しいよ。ただ、明日から3週間くらいしか無いから結構ダンスはスパルタだよ?」
「でも一応基礎は大丈夫だったじゃん?」
そう、実は吹奏楽部の前に基礎をチェックしていたのだ。
基礎はできていたので、3週間あればギリではあるものの出来そうだ。
「まあギリギリだな。どっちにせよ明日からはスパルタだから今日はもう寝よう」
ということで今日はお風呂に入って寝ることにした。
/////////////////////////////////////////////////////////
電車のスカートというのは、車両の先頭部を前から見た時に、下の方にある覆いみたいなやつです。
「電車 スカート」って検索すれば多分出てきます。
一応近況ノートに写真付きで上げてあります(一番新しいやつ)。
////////////////////////////////////////////////////////
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます