第12話 恋
廉 「・・・何で床に座ってんだよ。」
柚月「だ、だって、他に座る所ないんだもん。」
廉 「ふーん。ま、いいや。ちょっと着替えるからそっち向いてて。」
柚月「分かった。」
濡れたワイシャツから、透き通って見える艶やかな廉の背中。
自らボタンを外し、露になったその背中に、幼い頃の面影はなく・・・。
廉 「おい(笑)何実況なんだよ!!早くそっち向いてろ!」
柚月「あ、はい。ごめんなさい。」
もっと男臭い匂いの部屋かと思っていたのに、意外だった。
部屋は汚いけれど、久々に入った廉の空間は、案外居心地がいいかもしれない。
あたしは懐かしく思い、部屋の隅々を見渡すと、ある一冊の雑誌を発見した。
柚月「抜いて抜いて抜きまくれ・・・?大人の松茸大運動会?」
廉 「おいっ!!(笑)勝手に漁るな!!」
柚月「あらっ、うわわわぁ・・・。」
廉 「着替えました!!はい!!その本元に戻して下さい!!」
大人の本を見つけてしまったあたし。初めて見たが、まぁ凄い。
そして、慌てて着替えを済ませた廉は、あたしから本を奪い取り、机のな引き出しへとしまった。
廉 「ごめん。」
柚月「大人の松茸?」
廉 「それは忘れろ!!そうじゃなくて、今日色々と・・・。」
柚月「廉が謝るなんて珍しいね?どうしたの?」
廉 「柚月。お前は桂君が好きなの?」
支えてあげたい。側にいてあげたい。
異性に対してあんなにも強く思えたのは、桂太先生が初めてだった。
それに、雨の中で去り際に見てしまった桂太先生の切なげな表情。思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
柚月「好き・・・なのかな。」
廉 「どこが?」
柚月「どこが?・・・優しい所?」
廉 「後は?」
柚月「そんな急に言われても分からないよ!これからゆっくり時間を掛けて見つけて行くの。」
廉 「それは恋とは言わねぇの!」
柚月「廉に何が分かるの?廉だって今まで恋なんてした事ないくせに!!」
廉「俺はあいつが嫌いなんだよ!お前も今日ので分かっただろ!?」
柚月「それはそれ。あたしは自分の気持ちに素直でいたいだけ。邪魔しないで!!」
廉 「お前は俺の側にいろよ。今までだって、ずっと一緒だっただろ?しかも、桂君は結婚して奥さんも子供もいる。お前が立ち入る隙なんてねぇの!!」
柚月「誰かを好きになった事も無い人に言われたって全然説得力がない!!」
まるで、子供扱いをされている様な気がして悔しかった。
あたしの全てを見透かされている様で、ムキになっていたんだと思う。
恋の仕方なんて分からない。
「恋愛の定義」そんなの知らない。
あたしはただ、今あるこの気持ちに正直でいたいだけ。
それだけなのに・・・。
廉 「俺は恋愛はしない。」
柚月「なら、口出ししないで。説教するならあたしを納得させる位の恋の一つでもしてからにしてよね!」
悔しさと虚しさが一気に溢れ出てしまった。
「恋という名への憧れ」この言葉が、今のあたしには一番当てはまる事も自覚している。
恋に発展する境界線が分からない。友達以上の感覚が分からない。
桂太先生も廉も。二人とも大切と思える気持ちは変わらないはず。
あたし一人だけが、また取り残されて行く気がして余計に焦る自分がいた。
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