第94話 優しい兄

廉 「あれ、待っててくれたの?」

柚月「お疲れ様、廉。」


あれから、大地君は先生に早退を命じられ、夕方保護者と一緒に学校へ来る事を告げられていた。

問題の男子生徒は、学年主任の代わりとして教頭に呼び出され、鞄を持って教室を後にしたまま戻ってくる事は無かった。

暫くの間、にわかで騒いでいた生徒達もネタに飽きたのか、いつの間にやら通常通りの雰囲気に戻っていた。


柚月「処分、大丈夫?」

廉 「あぁ、反省文だけで済んだ。」

柚月「そっか、良かった・・・。」

廉 「大地は?大丈夫?」

柚月「うん、あの後すぐ早退して、夕方親と学校に来るみたい。」

廉 「そっか。じゃぁ今頃来てんのかもな。」

柚月「それにしても、随分と暴れたんじゃない?」

廉 「あいつの制服探してる間、色々話したんだよ。初めてだぞ?おふざけ無しで真剣に話するの。」

柚月「どんな話したの?」

廉 「なんか・・・、世の中って不平等だなって思わされた。あいつさ・・・、本当はあんなキャラじゃねぇんだよ。」


大地君は五人兄弟の長男で一番下の弟はまだ五歳。母子家庭で朝から晩まで働く母親に代わって、下の子の面倒や家事、育児を母親代わりとしてきちんとこなし、生活をしているらしい。

中学の頃から朝は新聞配達、学校が終わってからは弟を保育園に迎えに行き、夜は夕飯作りから弟達のお風呂入れ。

勿論、休みの日は尚更友達と遊ぶ暇など無くて・・・。

次第に友達は大地君から遠ざかって行き、中学校生活は「孤立」した日々を過ごして来たのだと言う。


柚月「今までの大地君からは想像できないね。だって、いつも元気で明るくて・・・」

廉 「無理して元気で明るい自分を作ってたんだろ。「妹」の為に。」

柚月「妹?」

廉 「あいつ、中学の頃妹に言われたんだって。「いつも一人でいるお兄ちゃんなんて恥ずかしい」って。」

柚月「でも、それと廉のファンクラブに入るのと、何が関係あるの?」


『僕、いつもみんなに囲まれている廉君が羨ましかったんだ』

大地君は廉にそう言ったらしい。

確かに廉はいつも友達に囲まれていて、気弱な大地君がガツガツ入っていける様な雰囲気ではない。

でも、また孤立した高校生活を送れば、妹に恥をかかせる事になってしまう・・・。


柚月「大地君は、妹さんの為にファンクラブに入って廉に近付いたのね?」

廉 「兄としての威厳みたいなもの、見せつけたかったんだろ。それに、母子家庭の大変さは、一応俺も分かるからさ。」

柚月「結芽さん、頑張ってるもんね。」

廉 「ただ、ここまで公にしちまったから、大地のメンタルが心配ではある。」

柚月「そうだね・・・、明日学校に来てくれるといいんだけど。」

廉 「まぁな。さて、久々に二人っきりだし、ゆっくり帰ろうぜ・」

柚月「うん。」


翌日。大地君は学校を欠席。

次の日も、そしてそのまた次の日も。

大事にしてしまった件に関して、廉も責任を感じていたのだろう。

週明けの月曜日、学校を終えたあたしと廉は、手紙に書いてあっts携帯番号に何度かかけてみたものの、繋がる事はなく・・・。

最終手段として、記載されてあった住所へと行ってみる事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る