第100話 戦友との思い出

光希「それでは、保健の授業を始めたいと思います。」


授業が始まり、光希さんが黒板に今日の課題を書き出す。

そして、黒板の横には、スクリーンの機材が準備された。


光希「今日は「生きる」について。今から小さい紙を全員に渡します。みんなが生きるについてどう考えているのか、匿名で書いて下さい。」


前の席から順に手渡れていく小さな紙。

あたしは、その真っ白な紙に「試練」と書き、教壇の机の上のある回収ボックスへ入れた。


全員分の回収が終わり、光希さんは一枚ずつ紙を開き、書かれてある内容を黒板へと書いていく。

「楽しい」「何とも思わない」そう書く人の中には、「今すぐ死にたい」や「辛い」、「憎い」・・・。

表面だけでは感じ取れなかった、みんなの心の叫びが書き綴られてあった。


光希「素直な気持ちを書いてくれてありがとうございます。ここで、みんなに観て欲しい写真があります。窓付近の生徒、カーテン閉めてもらってもいいかな?あ、それから電気も消して下さい。」


教室内が暗くなり、スライドの明かりが照らされる。

「何が始まるのだろう?」

きっと、あたしを初め、みんながそう思ったはず。


・・・でも、映し出された映像に、あたしは自然と涙が溢れた。


光希「本当だったら、彼もこの三週間、僕と一緒に実習生としてこの教壇に立っている予定でした。」


映し出されて行くのは、大学の門の前で光希さんや同級生達と嬉しそうにピースをしている譲さんの写真。

みんな初々しくて・・・、それぞれが希望に満ち溢れている笑顔だった。


光希「僕は落ちこぼれの方で、いつも赤点ギリギリ。逆に彼は成績優秀、性格も穏やかでよく女子から恋愛相談を受ける程のお人好しでした。」


譲さんが光希さんに勉強を教えている写真。

譲さんが、授業中に居眠りをしている写真。

そして、

彼女と思われる女の人に向けた満面の笑み・・・。

あたしの知らない譲さんが次々と映し出され、それがどれも幸せに満ちている気がした。


でも、次に映し出された写真は、そんな幸せから病へと侵されて行気シーンへと切り替わる・・・。


光希「彼は去年、病気でこの世を去りました。彼と僕は同じ教師の道を目指していて。僕なんかより遥かに教師という職業が天職だったと思います。」


柚月「あ、この写真・・・」


いつの間に撮っていたのだろう?

譲さんと初めて出逢った花火大会での写真。

美味しそうにバナナチョコを食べている譲さん。

そして、もう一枚は、

打ち上げられている花火を、今にも泣きそうな・・・、切なそうな表情で見上げている横顔・・・。


柚月(こうやって見てみると、譲さんの病気は少しづつ進行して行ってtのがわかる・・・。)


チラリと廉の様子を伺うと、いつもは寝ている廉もこの時ばかりは真剣にスクリーンの譲さんを眺めている。廉からすれば、会った事も無く、会話をした訳でも無く。初めて関わったかと思いきや、突然の「別れ」。

どんな性格で、どんな顔をしていたのか。このスクーリンで譲さんを初めて知る事になってしまった。


どんな感情を抱き、どんな想いを募らせながら観ているのだろう・・・。

そんな中でも、光希さんの授業は止まる事なく続けられた。

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