第45話 手の痛み
まこ「柚月っ・・・!」
我に返った時には既に遅し。
生まれて初めて、あたしは人の頬を叩いてしまった。
どうしても、自分では抑制出来なかった。
それに、誰かに止められていたとしても、あたしはきっと同じ行動を取っていたと思う。
「消えればいいのに」
この言葉だけは、簡単に口にして欲しくなかったから・・・。
桂太「古川、ごめん。これは教師として言わせてもらう。手をあげるのは良くない。」
柚月「そんな事、分かってます。」
まこ「先生っ、悪いのは柚月じゃないでしょ!?」
桂太「勿論だ。悪いのは古川だけじゃない。今回は叩かれる方にも原因がある。だから、お互いに・・・」
廉 「こんなとこで何してんだよ?」
柚月「廉・・・。」
まこ「廉君、あのねっ・・・」
「古川さんが、急にあたしを叩いて来たの」
本当の涙なのか、はたまた目薬なのか。
彼女は廉の姿を目にするなり、駆け足で廉の腕にしがみ付き、今までとはまるで違う弱々しい声で助けを求め始めた。
まこ「こいつ・・・、随分と名演技してくれるじゃん。」
廉 「柚月。」
柚月「何?」
廉 「こいつの事、叩いたの?」
柚月「叩いた。」
昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響く。
沢山の生徒が、あたし達の状況を野次馬の如く騒ぎ立て始め、それに気付いた桂太先生が各教室へ戻る様、上手く促してくれた。
桂太「とにかく授業が始まるから、続きは放課後職員室に来なさい。」
柚月「分かりました。」
まこ「ほら、あんたも早く自分の教室に戻んなさいよ。」
桂太「大丈夫。この子の次の授業は俺だから。ほら、行くぞ。」
そう言われた彼女は、ふてくされた態度で廉から離れ、あたしとすれ違いざまに軽く舌打ちをし、教室へと戻って行った。
まこ「柚月、大丈夫?」
柚月「ごめんね、まこ。まこが悪い訳じゃないのに。」
まこ「そんな事言ったら、柚月だって悪くないでしょ!?」
柚月「とにかく、教室に入ろ。」
廉の前では冷静さを保っていたい。
心が乱れている今、廉と距離を置かなければ、きっとまた廉を傷付けてしまうかもしれない。
醜い争い事や、無駄な言い合いをしても何も良い事は生まれない。
平穏な生活を送りたい・・・。
廉 「ちょっと来い。」
柚月「え、ちょっと何で?」
まこ「一難去ってまた一難・・・って感じか。」
痛い程強く掴まれたあたしは、無理矢理解こうと試みていたものの、廉の力が圧倒的に強く微動だにしない。
柚月「ねぇっ、どこに行くの!?』
廉 「腹減った。
柚月「はぁ!?たった今、昼休み終わったばっかりじゃん!!」
廉 「いいから飯、付き合え。」
柚月「・・・何なんだ、この男は。」
今さっき起こっていた事を帳消しにでもするかの様に、廉はあたしの腕を掴んだまま無言で歩き続け、辿り着いた先は夏休みにあたしとまこがバイトをしていたお店だった。
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