第16話 高校デビュー

柚月「ね、ねぇ、ちょっと濃すぎない?」


馬鹿でかいメイクポーチの中から次々と出てくる道具の数々。

まるで、ドラえもんのポケットみたい。

まこは手慣れた手付きであたしの顔面にスケッチをするかのごとく、スラスラと仕上げて行く。


まこ「うっわ!!やば!!」

柚月「だから言ったじゃん・・・。似合わないって。」

まこ「逆だよ!凄く可愛い!!ほら、鏡で見てみなよ!」


まこに誘導され、あたしは言われるがまま恐る恐る鏡の前に立った。


柚月「・・・誰これ。」

まこ「ね!?柚月は素がいいからメイクしたらもっと可愛くなるってずっと思ってたんだぁ!!」

柚月「なんか・・・、あたしらしくないよ。」


瞼にはラメが入った淡い色のアイシャドーが塗られてあり、睫毛は天井を向いている。鎖骨下まで伸びていた髪の毛もコテという機械でクルクルに巻かれていた。


まこ「これでも、全然ナチュラルに近いメイクだけど、柚月はこれで充分

!廉君、見たらきっと惚れ直すと思うよ!?柚月も高校生なんだし、メイクデビューしようよ!

柚月「まぁ、確かにみんなしてるもんね・・・。少しづつ頑張ってみようかな。」

まこ「よし!!じゃぁ、今日の放課後に一緒にコスメ見に行こう!」


一時間目終了のチャイムが鳴る。

あたしとまこは道具を片付け、トイレから教室へと向かった。


まこ「次は歴史だよね?目の保養タイムだわぁ〜」

柚月「歴史か・・・。」

まこ「あ、そっか。廉君と桂太先生、大丈夫かな?」

柚月「そうだね・・・。とりあえず戻ろっか。」


胸がざわつく。

廉の事。桂太先生の事。宙ぶらりんのままは良くないと分かってる。

でも、ちゃんと考えて決めたい。答えを出したい。

「好き」心からそう思えるのは誰なのか。

きちんと自分の胸に耳を済ませなくちゃ・・・。


柚月「あれ・・・、廉がいない。」

桂太「おーい。席に着いて。授業始めるぞ。」

まこ「あ、ねぇ桂太先生!柚月、可愛いでしょ!?」

柚月「ちょっとまこ!!やめてよ!」

桂太「え、これ・・・古川さん?」

柚月「これって・・・。」


まるで見てはいけなかったものを見る様な驚きぶりの桂太先生。

良いのか悪いのかは知らないが、授業開始のチャイムが鳴り、生徒達が自分の席に座り出した。

あたしはベランダや廊下など、廉の姿を探したが何処にも見当たらなかった。


柚月「廉、何処に行ったんだろう・・・。」

桂太「古川さん。」

柚月「あ、はい。」

桂太「似合ってる。可愛いよ。」


自分が不甲斐ない。

廉の事を心配しながらも、桂太先生の言葉に舞い上がっている自分がいる。

こんなだらしない自分が恥ずかしい・・・。

こうして、結局廉が不在のまま歴史の授業が始まった。


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