第11話 心の雨

桂太先生と廉の仲裁に入るかの様に、晴れていた空は急に雲行きが怪しくなり、小雨が降り出した。桂太先生は、まだ廉に何かを伝えたそうであったが、廉はあたしの腕を掴み、足早に公園を後にした。

途中、何度も桂太先生の方を振り返ったが、先生は激しくなりつつある雨の中、目を閉じ、ただ空を見上げていた。

「サポートする」だなんて、偉そうに言っては見たものの掴まれた廉の手を振り解く事すら出来ない自分が、とても情けなく感じた。

桂太先生への恋が本物であったなら、今すぐにでもこの手を振り解く事だって出来るはず。

でも、微かに震えている廉の手を離すのが、どうしても出来なかった。したくなかったのだと思う。

それに。

雨に紛れ、廉が泣いている様な気がしたから・・・。放っておく事が出来なかった。


結芽「おかえ・・・り。うわぁ、派手に濡れてるじゃん!どうしたの?何かの修行!?」

柚月「結芽さん、こんにちは・・・。」

結芽「あれ?柚月ちゃん!?何か帰ってくるの早くない?ねぇ、早いよね?」

廉 「いいからタオル。」


ついさっき、あんな事があったばかりでの結芽さんのいつもと変わらぬ笑顔。

考えてみると、結芽さんの悲しい表情や、泣いている姿を今まで一度も見た事が無い事に気付いた。


結芽「はい、タオル。ねぇ柚月ちゃん、もしかしてサボり?」

廉 「何で俺に聞かないんだよっ」

結芽「あ、いたの?おかえり。」

廉 「中年反抗期かっつーの!」


いつもと変わらない会話のやり取り。

親子なのに、友達の様な関係が本当に羨ましい。


結芽「柚月ちゃん、あたしの服貸そうか?風邪ひいちゃうよ?」

廉 「加齢臭移るぞ、柚月。」

結芽「今夜がカレーなだけに?」

廉 「華麗な勢いで滑ったな、残念無念また来年。」

結芽「相変わらず口が達者で腹立つなぁ。」

廉 「柚月、行くぞ。」

結芽「あ、待って柚月ちゃん!!」


そう言った結芽さんは、自分の部屋から部屋着をあたしに手渡してくれた。

いつも明るくて優しい結芽さん。きっと、廉のお父さんもとてもいい人だったのだろう。


柚月「ありがとうございます。」

廉 「行くぞ。」

結芽「あ、待って!!」

廉 「今度は何だよ!?」

結芽「柚月ちゃんにゴム渡さないと!」

廉 「ば、ばかじゃねぇの!?俺と柚月はそんな事しねぇし!!」

結芽「何言ってんの?この変態息子。柚月ちゃん、これあげる。」


結芽さんから貰ったのは、角度によって色々な色に変わるシュシュ。


柚月「可愛い・・・。これ、結芽さんが作ったんですか?」

結芽「うん。何か趣味を見つけようと思ってたらこれにたどり着いちゃった!虹色みたいで綺麗でしょ?」

廉 「あ、そのゴム・・・。」

結芽「何想像してんだ?柚月ちゃん、この男、ムッツリだから気をつけてね!


結芽さんがいるだけで、こんなにも雰囲気が明るくなる。

廉も昔は同じ様に、沢山笑ってバカばっかり言っていたのに・・・。

最近は本当に素っ気なくなってしまった。


柚月「うわ。部屋汚い。」

廉 「男ならではの醍醐味だ。」


いつぶりだろう?最近は玄関までしか入らなかったから、何だかとても懐かしく感じる。部屋の家具や配置は昔と殆ど変わらない。

ただ一つだけ変わったと言えば、あたしの心が何故かソワソワしている事だった。








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