第10話 約束

桂太「お前の高校生活が、後悔の無い日々を送れる様に支えてやって欲しいって。そう拓に頼まれたんだよ。」

廉 「余計なお世話何だよ!わざわざ大学に入って教員免許まで取りやがって。あんたに支えて貰わなくたって、俺は一人で後悔の無い日々を送れる!!」

桂太「廉、お前はあの時まだ幼かった。理解していない部分もあると思う。でもな、拓は自分の余命が分かってからずっと結芽ちゃんとお前の事を心配してたんだ。」

廉 「適当な事言ってんじゃねーよ!時効話に過ぎねぇじゃねぇか!」

桂太先生「拓は会話が出来なくなる寸前まで、「俺にお前と結芽ちゃんを頼む」って、何度も言われ続けたんだよ。」


少しずつ、少しずつ。謎解きの様に明かされていく、廉の心の中に潜む黒い塊。

でも、その塊には鍵穴がある。

振り返ってみれば、廉の口からお父さんの話をされた事が一度も無かった。毎朝お線香あげ、あたしもそれ以上深く追求する事をしないでいた。

・・・ううん、敢えて聞かずに過ごして来ていたのかもしれない。


廉 「今更かよ?父さんが死んでからはずっと音信不通。それまでは、あんなに頻繁に行き来してたのに死んだら友情も終わりかよ?」

桂太「それは違う。俺や菜緒が結芽ちゃんの側にいる事で、一人欠けてしまった拓の存在をいつまでも引き摺ってしまうからって。忘れる事が出来なくなってしまうから、暫くはそっとしといてやって欲しいって。」

廉 「どうせ、それも父さんから頼まれたって言うんだろ?何で忘れる必要がある?父さんが死んでからの母さんの憔悴ぶり、見た事あんのよ!?」

桂太「廉。俺はお前が心配なんだよ。未だに拓の死をちゃんと受け入れられていない。」

廉 「消えろ。これ以上柚月にも関わるな。お前の授業の時は姿消してやっから二度と偉そうに俺に説教するんじゃねぇ!!」


「拓、桂太、結芽、菜緒」

この四人は、どんな高校生活を過ごしたのだろう?

廉の心の中にある黒い塊の鍵は、誰が持っているのだろう?

ただ、廉今まで背負い続けて来た寂しくて切ない想い。まだ幼かった廉が見た、最愛の伴侶を失い、憔悴していた母親の姿。

どうして廉が、恋愛に対して頑なにしないと言い張って来てるのかが、ほんの少しだけ分かった様な気がした。

そして、桂太先生と廉の確執も・・・。

「絡まっている糸が、早く解ければいいのに」

あたしは、切にそう願う事しか出来ずにいた。





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