第23話 別れ

廉 「なぁ、柚月。抱きしめてもいい?」

柚月「ダメな理由が見当たらないよ。」

廉 「・・・ごめん。」


「ごめん」

たった三文字に込められた廉の苦しみ。その苦しみの全てを、全て受け止めてあげれない事など百も承知。

でも、こうして側にいる事で廉の心が少しでも楽になってくれたら。

気休め程度でもいいから、あたしを求めてくれるのであれば・・・。

真剣に応え、向き合っていきたいと思った。


廉 「俺さ、父さんが大好きだったんだ。」

柚月「うん、小学校の卒業アルバムの将来なりたいものに、「松澤拓」って書いてたもんね。」

廉 「いつも前向きでさ。家の中はいつも明るくて、母さんとよく喧嘩もしてたけど、お互い笑ってて。休みの日は必ず何処かに連れてってくれて。「何事も経験なんだ」って・・・。毎日が本当に楽しかったんだ。」

柚月「凄く素敵なお父さんだったんだね。」

廉 「・・・そして、誰よりも一番に母さんを想ってた。」


どんなにもがいても過去には戻れない。巻き戻せない。

今のこの状況を、廉のお父さんなら・・・、拓さんなら今の廉にどんな言葉を掛けてくれただろう?

今の廉に、あたしはどんな言葉を掛けてあげたらいいのだろう・・・。


廉 「父さんがいなくっなって、楽しかった毎日や目標が全て失われて。この悲しさを乗り越えれば、いつかきっとその先の未来が見えて来るって信じてた。」

柚月「うん。」

廉「でも、乗り越えようとすればする程、どんどん感情の行き場を見失うばかりで、父さんにしてやれなかった後悔ばかりが頭の中を支配して・・・怖かった。」

柚月「うん。」

廉 「無理矢理忘れようともした。思い出も何もかも。でも、意地を張っては勝手に苛立って・・・。気が付けば、大切な人との隙間が広がるばかりだった。」


「過去と向き合うのが怖かったんだ。」

廉は、今にも消えてしまいそうな声でそう言った。

俯いている廉の肩が震えている。

きっと、心が泣いている。

廉は今、「過去のトラウマ」と必死に闘っているんだ・・・。


柚月「あたしじゃぁ、廉の支えにはなれないかな?一緒に過去のトラウマを・・・」

廉 「柚月の毎日に、俺は似合わないって分かったよ。」


そう言い、廉はあたしの身体から離れた。


柚月「どうして?」

廉 「柚月、俺はお前が好きだ。でも、父さんが母さんを愛し抜いた様に、俺はお前の事を幸せにする自信がない。・・・ごめん。柚月に俺の過去は埋められない。トラウマや後悔も消えない。そんな苦労を柚月に掛けさせたくない。」


「俺は最初から柚月の隣にいる資格なんて無かったんだ。」

あたしの頬から流れ落ちる一粒の涙と共に、廉の目からも零れ落ちた一粒の雫・・・。

廉はこの言葉を言い残し、立ち尽くすあたしの前から姿を消した。

そして、この日を境にあたしと廉は「幼馴染み」でもなく「友達」もなく。

「他人」となった。

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