第56話 記憶

柚月「・・・ん?」

まこ「柚月っ!?」

柚月「・・・まこ?あれ、ここあたしの部屋・・・。」

桂太「良かった・・・。古川、大丈夫か?」

柚月「桂太先生まで・・・。」


ベットから起き上がった瞬間、後頭部がズキズキと痛む。

あたしの中で、曖昧に残っている記憶。

確か、まこを探していて廉と会って。二人で剣道場へ向かって・・・。

そこでまこを発見した。


柚月「そうだった!まこ、大丈夫!?怪我とかしてない?」

まこ「柚月、ごめん。まさかこんな事になるだなんて・・・。」

柚月「違うよまこ。まこが悪いんじゃないの。」

まこ「でもっ・・・。」

柚月「まこを見つけられて良かった。遅くなってごめんね、怖かったよね。」

まこ「柚月・・・、覚えてないの?」

柚月「何を?」


突然、まこが泣き崩れ、桂太先生がまこの背中をさする。

そして、あたしはぼんやりとした世界観の中で、まこと桂太先生のやり取りの中から、今に至るまでの記憶を遡って行った。


桂太「古川、痛い所はないか?」

柚月「頭が少しだけ・・・。桂太先生。あたし、どうして家にいるんですか?」

まこ「本当に何も覚えてないの?」

柚月「あたしが何かしたの?」


あたしにとって、きっと一番重要な記憶が欠落しているんだという事が読み取れる。でも、その「重要な記憶」が、今はどうしても思い出せない。

ただ、その中で一つだけ気になった事・・・。


柚月「廉・・・ねぇ、廉はどこ?」

まこ「桂太先生・・・。」

桂太「あのな、古川。廉はまだ学校にいるんだ。」


異様な雰囲気。

確か・・・。あたしと廉がまこを見つけて、それで廉にまこを保健室に連れてってもらう様にお願いをして。

その後、あたしとりかが口論になって・・・。


柚月「あたしはどうやってここまで来たんですか?」

まこ「道場に駆け付けた廉が、気を失っている柚・・・」

桂太「古川、今日はとにかく休め。明日も体調が悪ければ休んでいいから。古川のご両親にもそう伝えておく。」


何かを言いかけたまこの言葉を遮り、桂太先生は穏やかな表情であたしを気遣ってくれる。でも、「道場に駆け付けた廉が」・・・。

まこの言葉が、頭から離れない。


桂太「それじゃぁ、俺と陣内は帰るよ。行くぞ、陣内。」

まこ「・・・はい。」

柚月「待ってください。」

桂太「どうした?」

柚月「どう考えても何かが引っかかるんです。あたしは何があったんですか?」

桂太「全てが落ち着いたらちやんと話すから。それに、無理をして思い出す事じゃない。頼むから、今日だけでもゆっくり・・・」

柚月「ねぇまこ、教えて。どうしても思い出せないの。あたしは何があったの?」

まこ「柚月は・・・、りかに騙されて男子に・・・」

桂太「陣内!!」

柚月「あたしが・・・りかに騙されて?」


りかに騙されて・・・


「襲われた」


そうだ。思い出した。あたしと廉は、道場の中で憔悴していたまこを見つけて、廉に頼んでまこを連れて行ってもらって。

その後、あたしが土下座をした事で和解をしたかと思いきや、りかの意味不明な発言でまた揉めて・・・。

「ある条件」をあたしが引き受けないと、まこの動画を広めると脅された。


あたしは自らワイシャツを脱いで、男子生徒に押し倒され無理矢理馬乗りになられた。

でも、その後は・・・。


桂太「また明日来るから。」

柚月「・・・そう。言い方が悪いかもしれないけど、まこはあたしをあの場所に呼び出すための「おとり」にされたの。」

まこ「それは違うよっ!?りかはあたしに仕返しをしたくてっ・・・」

柚月「あたしは、りかに「友達になろう」って言われて・・・、でも結局断ったの。」

桂太「古川、もう考えるな。」


その後の事・・・。

あたしに何があった?何をされた?

・・・廉がここにいないのはどうしてなの?


柚月「そうしたら、りかがまこの動画を拡散するって言い出して・・・。」

まこ「あのね柚月。りか、本当は動画なんて最初から撮ってなかったんだよ。」

柚月「だから、あたしはそれを阻止する為に・・・、りかの言いなりになったの。」


今となってはもう、誰が悪いとか・・・そんな事もうどうでもいい。

記憶が鮮明に蘇ってきた今、あたしの感情に喜怒哀楽がもう出てこない。


そうだった。あたしは・・・。

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