第57話 心の声

柚月「ねぇ、まこ?」

まこ「何?」


あたしは汚れてしまった。どんなに身体を綺麗に洗い流しても、元には戻らない。心も体も。

それが真実なのには変わりない。


柚月「ねぇ、桂太先生?」

桂太「分かった。古川、一度落ち着いて話を・・・」


でも、どうしてもこれだけは確認しておきたい事がある。


柚月「あたしは・・・、廉にその現場を見られたの?」


二人の険しい表情が答えを物語っている。

『廉は汚されているあたしを見た』

・・・大好きな廉に、汚らわしい場面を見られてしまった。


柚月「廉に会いたい・・・。」

まこ「ちょっと柚月!どこ行くのっ!?」

桂太「古川っ、違うんだ!!」


おぼつかない身体を起こし、あたしは止めに入るまこと桂太先生を振り切り・・・家を飛び出した。


柚月「廉・・・、廉に会いたい。」


頭痛と目眩がしてまともに歩けない。

それに、自分がどこに向かっているのか、この道がどこへ続いているかすら判断できない程、あたしの心は憔悴しきっていた。


まこ「・・・いたっ!!桂太先生こっち!!」

柚月「まこ?」

桂太「古川、家に戻ろう。ちゃんと話すから。」

柚月「嫌、廉に会いたいんです。」

まこ「しっかりして柚月!!そんな状態で廉君に会ってどうするの!?」


廉に聞きたい事がある。

廉に確認したい事がある。


桂太「古川、廉はまだ家に戻れていないんだ。」

柚月「廉はどこにいるんですか?あたし、廉に聞きたい事が・・・」

桂太「結芽ちゃんと一緒に、まだ学校にいる。」

柚月「学校?それなら、あたしも学校に・・・」


もう、今までのあたしじゃない。今のあたしは、りかと何も変わらない。

りかを「クズ」呼ばわりしたあたしも同じ。

・・・「クズ」でしかない。


まこ「柚月っ!!何か勘違いしてる!!」

柚月「・・・たいの。」

まこ「え?」

柚月「廉に聞きたいの。」


大好きな廉。

「こんなあたしを、気持ち悪いと思う?」

「こんなあたしを、嫌いになった?」

それから、もう一つ・・・。


結芽「・・・あれ?柚月ちゃん?」

桂太「結芽ちゃん・・・」

結芽「桂太・・・君?」

廉 「柚月っ!!」


ねぇ、廉?あたしは・・・


柚月「廉・・・」

廉 「お前、何やってんだよ!?」

柚月「廉に会いたかったの。廉、あたし廉に聞きたい事が・・・」

まこ「柚月危ないっ!!」


『これからも、廉を好きでいてもいいですか?』


結芽「柚月ちゃん!?大丈夫!?」

桂太「大丈夫だ、廉を見て安心したんだろう。気を失っただけだ。あんな事があった後の精神状態で、よくここまで歩けただけでも凄いよ。」

結芽「とりあえず、話もあるしあたしの家で柚月ちゃんを休ませるから、誰か・・・」

廉 「俺が運ぶ。」

桂太「廉、無理するな。お前だって相当なダメージを受けてるはずだぞ。」

廉 「俺の痛手なんて、柚月に比べたらなんて事ねえんだよ。今回の原因は俺のせいだ。だから・・・」


『誰も柚月に触んじゃねぇ。触れていいのは俺だけだ。』


遠く・・・、ゆっくりとシャットダウンされる意識の中、あたしの耳には廉の声だが響いていた。


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