第40話 契約

柚月「失礼します・・・。」

譲 「柚月ちゃん、いらっしゃい!!」

柚月「譲さん!お久しぶりです!」

譲 「わざわざ来てくれたんだね。」


顔が少しほっそりとした気がする。何となく顔も青白い・・・。

頑張って笑顔を作ってくれているのが分かる。

花火大会で会った頃とは、明らかに症状が進んでいる事があたしにも伝わって来た。


柚月「あの・・・、突然来ちゃってごめんなさい。」

譲 「何で謝るの?嬉しいよ、俺は。」

光希「立ち話も疲れるからさ、はい。椅子へどうぞ。」

柚月「ありがとうございます。」


個室の部屋。そして、病院独特の匂い・・・。

点滴をしていた譲さんはベットを起こし、冷蔵庫に手を伸ばした。


譲 「柚月ちゃん、飲み物何がいい?ジュースとか・・・」

光希「譲、無理すんな。俺がやるから。柚月ちゃん、お茶でもいい?」

柚月「あ、はい。」


あたしの気のせいだろうか?

譲さんの手が、どことなくおぼつかない。

力が入らないのだろうか?冷蔵庫を上手く開けれない譲さんに代わって、光希さんがあたしにペットボトルのお茶を渡してくれた。


柚月「ありがとうございます。」

譲 「柚月ちゃん。」

柚月「はい。」

譲 「また、会えたね。」

柚月「はい!また会えました!」

譲 「会えた記念に、一つだけ俺と約束して欲しいんだ。」

柚月「約束・・・ですか?」

譲 「そう。約束。」


「ちゃんと、学校に行って欲しい。」

「現実から目を背けないで欲しい。」

そして・・・。


『俺の分まで、ちゃんと幸せになってよ。』


譲さんはそう言い終えた後、あたしに右の小指を差し出した。


譲 「ね、約束。」

柚月「俺の分までって・・・何ですか?」

譲 「柚月ちゃんには、これからまだまだ沢山の幸せが待ってるんだよ。」

柚月「それは、譲さんにだって言える事なんじゃないんですか?」

譲 「嫌な事もこの先沢山起こると思う。でも、柚月ちゃんなら必ず乗り越えられるから。・・・必ず。」

柚月「そんな・・・、もう会えないみたいな言葉聞きたくないですっ!!」


涙が止まらなかった。

これからは、ちゃんと学校に行くし、現実から目を逸らしたりもしない。

それで、譲さんが元気になるなら。

でも、今の譲さんの言葉は、あたしに幸せを託したような言い方。

譲さんの分の幸せまでをも、貰うような事はしたくない・・・。


柚月「二つ目までの約束は守ります。でも、幸せはお互いに掴み合って行きましょう!?」

譲 「柚月ちゃん・・・。」

光希「柚月ちゃんの言う通りだな、譲。」

譲 「・・・うん、そうだね。」


根負けしたかの様に譲さんは笑い、三つ目の約束をお互い必ず守るという「契約」代わりとして、あたしは差し出されていた小指に自分の小指を絡めた。

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