第41話 諦めない心
柚月「譲さん、約束ですからね。」
譲 「うん、わかった。」
柚月「また、来てもいいですか?」
譲 「勿論いいよ、待ってる。」
柚月「じゃぁ、これも追加で約束!!」
譲 「あははっ!参りました(笑)」
この後、あたし達三人はくだらない話で笑い合った。
時折、見え隠れする譲さんの辛そうな表情にあたしも光希さんも気付いていた。でも、悟られない様に笑顔を作り続ける譲さんの「今だけは」という想いがひしひしと伝わって来て・・・。
「もっと笑顔にさせてあげたい」
そう思う自分が心を奮い立たせていた。
光希「もうこんな時間か。バイト行かなきゃだし、そろそろ帰るよ。」
柚月「それなら、あたしも一緒に帰ります。譲さん、ありがとうございました。」
譲 「うん・・・、あのさ、光希。少しだけ廊下で待っててもらっててもいいかな?」
光希「あぁ、わかった。」
光希さんが席を外し、部屋の中にはあたしと譲さんの二人だけ。
譲さんは大きく深呼吸した後、引き出しの中から何かを取り出した。
譲 「これ、手紙。光希に渡して欲しいんだ。」
柚月「光希さんに?それなら今・・・」
譲 「今じゃないんだ。俺が・・・今いるこのベットから姿を消したら。」
柚月「・・・どういう意味ですか?」
譲 「頼めるの、柚月ちゃんしかいないんだ。ごめんね。」
柚月「どうしてですか!?さっき約束したばかりじゃないですかっ!!」
譲 「頑張る。頑張るよ。頑張って頑張って・・・・、最期まで生きるよ。」
柚月「それなら、こんな手紙なんか必要ないじゃないですか!」
譲 「柚月ちゃん・・・」
「人は遅かれ早かれ、土に還るんだよ。」
「俺は、人より少しそれが早いだけ。」
『この手紙には、伝えきれない想いが詰まっているんだ。』
そう言い、窓の外に視線を移した譲さんの目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
そうか。そうだった・・・。
譲さんは、もう充分過ぎる程頑張って来たんだ。
今だって、ちゃんと向き合って一生懸命生きている。そして、光希さんも一緒に・・・。
あたしには、計り知れない苦楽を共有して来た仲間だからこそ、面と向かって言えない想いがあるのかも知れない。
二人にしか、分かり合えない想いが・・・。
柚月「・・・分かりました。手紙は預かります。」
譲 「ありがとう。」
柚月「でもね、譲さんっ・・・」
譲 「分かってる。負けないで戦うよ、約束する。」
柚月「あたしも、譲さんとの約束を必ず守ります。」
譲 「うん。お互い、前を向いて頑張ろうね。」
柚月「はい。じゃぁ、光希さんが待ってるので帰りますね。」
譲 「今日は来てくれてありがとう。嬉しかったよ、とっても。」
柚月「それじゃぁ・・・」
譲 「あっ、柚月ちゃん。」
『またね』
笑顔で手を振り、そう言ってくれた譲さんからのたった三文字の言葉が、まるであたしを励ましてくれている様な気がした。
『必ず、また』
そう、言葉を返したあたし。
「生きて欲しい」最大限の想いを込めて力強く手を振り返し、握り締めていた手紙をバックの中に忍ばせ笑顔で部屋を出ると、光希さんがあたしの頭をポンと軽く叩いた。
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