第72話 閉鎖病棟
柚月「とても責任感の強い人だったんですね、和也さんは。」
幸恵「そうね。でも・・・その強すぎる責任感が彼の心を追い詰め、壊してしまったの。」
『どう足掻いても無駄』
和也さんがようやくその状況に気付いたのは、幸恵さんが二十一歳、和也さんが二十三歳の時だった。
「岩間酒店」。
代々受け継がれて来た店を、ついに畳まなければならないという現実に突きつけられてしまった。
幸恵「彼は、次第に心を無くしていった。」
柚月「どういう事ですか?」
幸恵「笑う事を忘れ、生きる意味を失い・・・、終いには私の事も譲の事も全て忘れてしまったの。」
柚月「和也さんは、今幸恵さんと一緒にいるんですか?」
幸恵「私は彼を守ってあげれなかった。・・・何もかもを失い、無感情になってしまった和也さんは・・・連れて行かれたの。」
柚月「連れて行かれたって・・・、何処にですか?まさか・・・」
幸恵「彼は生きてるわ。でも、例え会いに行ったとしても私の事なんて覚えていない。ただの「他人」としか認識出来ないの。」
柚月「今、和也さんは何処にいるんですか?」
幸恵「・・・精神科の閉鎖病棟よ。」
『閉鎖病棟』
病棟のい入り口が常時施錠され、病院職員に解錠依頼しない限り、入院患者や面会者が自由に出入り出来ないという構造を有する病棟。
病院や医師の判断によりけりだが、心を癒す、体調を整える理由で閉鎖病棟に任意入院する人も中には存在する。
ベットが空いていれば、生活リズムを整えたい等の理由でも入院させてくれる病棟・・・。
幸恵「私が全て悪いの。」
柚月「そんな事ないです。幸恵さんは一生懸命譲さんの面倒や和也さんのサポートをしようとしたじゃないですか!」
幸恵「私が、視力させ失わなければ譲も和也さんもこんな事にならずに済んだの。」
励ましの言葉が思い浮かばない。
きっと、光希さんだったらもっと上手く幸恵さんに思いやりのある言葉を掛けてあげれたのだろう。
柚月「・・・ごめんなさい。」
幸恵「どうして柚月さんが謝るの?」
柚月「気の利いた言葉も何も思い浮かばないんです・・・。今まで頑張って来た幸恵さんに対して、温かい言葉を掛けてあげる事も・・・。」
その時だった。
あたしの鞄の中から、携帯の呼び出し音が鳴り響く。
「光希さんかもしれない」
あたしは携帯を取り出し、画面を確認した後電話に出た。
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