第73話 偽りの恋人

柚月「廉!!どうしたの?」

廉 「迎えに行く。」

柚月「迎えに・・・って、あたしが今何処にいるか知ってるの?」

廉 「光希君から電話が来て、ある程度の話は聞いた。」

柚月「光希さんが!?」

幸恵「幸恵さん、どうかしたの?」

柚月「え?あ、いえ・・・。」

廉 「柚月。もう母さんの運転で向かってる。陣内も一緒だ。」

柚月「まこも?」


『柚月ちゃんを迎えに行って欲しい』

光希さんは、いつも全てを計算しながら動いてくれる。

時刻はもう夕方。でも、このまま光希さんの連絡を待たずに帰る訳にもいかない。幸恵さんとの話も中途半端なままで、何をしに来たのか分からなくなってしまう。


『きっと、長丁場になる』


光希さんは、あたしの性格を見込んだ上で廉に連絡をしてくれた。

ただ・・・。


柚月「どうしてまこも?」

廉 「「もう隠す事じゃない。」って。それ以外の事は光希君本人から聞け。


『必ず行くから待ってろ。』

そう言われ、電話は切られてしまった。


幸恵「柚月さん?大丈夫?」

柚月「あ・・・、大丈夫です。」

幸恵「お友達?」

柚月「あ、あの廉はあたしの恋・・・」


違う。そうじゃない。

あたしは今、譲さんの「恋人」なんだ・・・。


柚月「あたしの・・・幼馴染みなんです。」

幸恵「・・・そう。そういえば、今何時なのかしら?柚月さん一人で帰れるの?バスの時間は・・・」

柚月「大丈夫です。その幼馴染みが母の運転で迎えに来てくれるそうです。」

幸恵「とても優しい幼馴染みなのね。廉さんて方。」

柚月「あの、それから光希さんの恋人も一緒に来るんですが、構いませんか?」

幸恵「まぁ、光希さんの!?全然、むしろ大歓迎よ。ずっと一人での生活だったから、こうして誰かと会話をするのはとても嬉しいの。」

柚月「失礼じゃなければ、幸恵さんのお話も聞きたいです。」

幸恵「・・・そうよね。柚月さんは譲の恋人ですもの。色々と疑問に思うでしょうね。私が全てを失い、こうなってしまった病気・・・」


『網膜色素変性症』

夜盲が初期症状である事が多いと言われており、暗い場所で見えづらい状態で、「鳥目」とも呼ばれている。

その後、病症がが進行すると視力低下や色覚異常が生じ、最終的には「失明」する事もあり、進行度には個人差があるという。


幸恵「自覚症状を感じたのは、当時譲がまだ二歳だった頃。夏の夜に夜泣きをする譲を抱きながら外を散歩していたの。・・・ちゃんと歩いてるつもりだったのだけど、田んぼに落ちてしまって。」

柚月「泣いてる譲さんに気を取られていたとか?」

幸恵「私も最初はそう思ったの。でも、些細なミスが続き、どんどん酷くなって・・・。病院に行って検査をしてもらったの。その診断結果がそれよ。」


『いずれ失明するでしょう』

医師に言われ、幸恵さんは悩んだ。

一番頼りたい相手であった和也さんは、幸恵さんのサポート無しでは生活が困難な状態。

そして、幼かった譲さんはまだまだ手が掛かる。

「治療」

そう考えたが、お金が必要。

・・・それ以前に生活するお金すら、底をついていた。


幸恵「初めて恐怖を感じたの。これから自分がどうなって行くのか、いつ視力が奪われてしまうのか・・・。」

柚月「そうだったんですね・・・。」

幸恵「途方に暮れていた時だった。近所の人達が私達の様子がおかしいと、役場の方に相談してくれたみたいで。」


幸恵さんは、役場の人達の指示に従うしかなかった。そうする事でしか、今の状況から・・・。「死」という言葉が頭をよぎる現状から抜け出す方法は無かった。


「旦那様の症状が落ち着くまで』


その約束で和也さんは入院。

そして、幸恵さんは譲さんの「幸せ」を考えた。


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