第131話 幸せなはずのクリスマス

柚月「人が沢山・・・、でもみんな楽しそう。」


手がかじかむ程寒い。でも、もうすぐ現れる廉の笑顔を思い出す度に顔がにやけてしまう。

そして、昨日の夜電話で言われた言葉・・・。


「世界一大好きだよ」


頭から今もずっと離れずに焼き付いたまま。

とても嬉しかった。それは胸がギューっと締め付けられる程に。


柚月「早く廉に会いたいな。」


時刻は六時半。

もうすぐ廉が来る。

きっと、「ギリギリセーフ」って笑いながら走って来て。

そして、それをあたしが笑いながら手を差し出して。


「手を繋ごうよ。」


って・・・。

そんな妄想ばかりが頭を駆け巡っては一人で浮かれて。

五分、十分・・・、十五分。

待ち合わせの時間が刻々と過ぎていくのに、廉の姿が一向に見えない。


柚月「遅いな・・・。廉に電話してみよう。」


あたしは携帯を取り出し廉に電話を掛けようとした時。

「光希さん」

着信と共に光希さんの名前が画面に映し出された。


柚月「光希さん!?どうした・・・」


『廉が交通事故に遭った。』


柚月「・・・え?」


廉が・・・交通事故に?

遠くからあたしの名前を呼ぶ光希さんの声・・・。

それと共にどこか遠くで救急車の音が鳴り響く。


光希「・・・月ちゃんっ!」

柚月「は、はい。」

光希「ページェントの入り口の大きな交差点。分かる!?」

柚月「分かります・・・」

光希「今、まこをそっちに向かわせてるから一緒に今すぐ来て。急いで!!」


頭の中が真っ白で。

足が待ち合わせの場所から動こうとしてくれない。

・・・信じられない。これは夢なんだと願いたい。


まこ「柚月っ!!」

柚月「まこ・・・?」

まこ「着いて来て!!」

柚月「でも、廉がまだ・・・」


そう言った瞬間、まこがあたしの頬をパチンと叩いた。


まこ「柚月っ、しっかりして!!」

柚月「だって、あたしは廉とここでっ・・・!!」

まこ「廉が柚月の名前、呼んでるんだよ!?現実から目を逸らさないで!!」


現実?廉が今、この場所にいない現実・・・。

夢じゃない。廉は本当に「交通事故に遭った」。

これが今のリアルなんだ・・・。


柚月「連れてって。」

まこ「急いで、柚月っ!!」


まこに手を引かれ、あたしとまこは廉の元へ全力で走り出す。

向かっている途中、まこが廉が事故に遭った状況を淡々と話し出した。


まこ「光希と途中でバッタリ会ってっ・・・!!」


『このままページェントを見よう』と言う事になった二人。

横断歩道の信号が青になり、まこ達が渡り終え、そして信号が点滅。

赤に変わる瞬間だったという。


まこ「光希が廉君の姿に気付いて、声を掛けようとしたの。でも、廉君が点滅中の信号の中で・・・横断歩道を渡ったの。」


その時だったらしい。

猛スピードで走って来た車が廉と衝突し、廉何メートルも飛ばされ・・・倒れ込んだ。


柚月「廉はっ!?意識あるの!?」

まこ「駆け寄ったあたし達に一言だけ・・・」


『柚月・・・』


そこから意識は途絶えたらしい。


まこ「着いたっ!!柚月早く!!」


あたしの目に移った光景。

既に救急車が到着しており、道路に横たわっている廉に救急隊員がAEDをしている姿・・・。


そして、あたしの足下には、クリスマスプレゼントとして渡したはずのマフラーが、廉の血痕によって赤く染まっていた。











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