第132話 廉からのクリスマスプレゼント

『ダメだっ!反応しない!!』

『受け入れ可能の病院は!?』

『もう一度AEDをっ・・・!!』


慌ただしく動く救急隊員を、あたしはただ立ち尽くして見ていた。


光希「柚月ちゃんっ!!」

柚月「光希・・・さん?」

光希「今、結芽さんにも連絡したんだけど、仕事中みたいで出ないんだ!!」

柚月「このマフラー・・・あたしがあげたもの・・・。」

まこ「柚月、お願い。しっかりして。」

光希「柚月ちゃん、廉は今頑張ってるんだ。柚月ちゃんがしっかりしないとっ・・・!!」


『搬送先が決まりました!!』

『誰か一人同行願います!!』


救急隊員の言葉に光希さんが手を挙げた。

光希「この子、廉の恋人なんです。」

まこ「柚月、廉君に話し掛けてあげて!!」

光希「俺達も後を追うから!!」


あたしは言われるがまま、救急車に乗り込む。

廉はストレッチャーに移され、心臓マッサージをされながら車内へと運び込まれた。


隊員「今から、大学病院に運びます。」

柚月「はい。宜しくお願いします・・・。」

隊員「大丈夫ですか!?」

柚月「あの、廉は・・・?」


『心配停止状態です。とても危険です。』


救急車のサイレンが鳴り響き、それと同時に車が動き出す。


隊員「彼氏さんに沢山話し掛けてあげて下さい。」

心臓マッサージを続けている隊員が、あたしにそう告げた。


柚月「廉・・・!?あたし、柚月だよ。」


ピクリともしない廉。

救急車は『道を開けて下さい』と何度も発信しながら、廉を大学病院へ運ぶ為にいそいでくれている。


柚月「廉・・・、廉っ!頑張って!!お願いっ・・・。」


まさか、こんな事になるなんて思わなかった。

そして、他の隊員が事故に至る経緯をあたしに教えてくれた。


『彼氏さんを跳ねた相手は、飲酒運転だったみたいです。』


『飲酒運転』。

交通マナーもろくに守れない相手に、廉は轢かれた。

正気を戻しつつあったあたしは、徐々に怒りと焦りが交互に押し寄せる。


柚月「お願いします!!廉を助けて下さい!!」

隊員「全力を尽くします!!」

柚月「お願い・・・お願いだから・・・」


『拓さん、廉を連れて行かないで』


隊員「すみません。これ、彼氏さんの所持品です。」

柚月「あ、ありがとうござ・・・」


目についたのは、細長い茶封筒。

あたしは、ゆっくりと中を確認してみた。


柚月「・・・どうして?ねぇ、廉。起きてよ・・・」


『婚姻届』


血で滲んでいる婚姻届。

そこには廉の筆跡で書かれてあり、付箋でこう書かれてあった。


『高校卒業したら結婚しよう』


思わず、あたしの目から涙が溢れ落ちる。


六時半。

青のイルミネーション前待ち合わせ。

『ギリギリセーフ』と笑いながら、廉は・・・


隊員「間も無く到着します。」

柚月「廉、頑張って、お願い。」


廉の手を強く握った瞬間だった。


柚月「・・・廉?」


廉の目から一粒の涙が流れ落ちた。












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