第106話 夏の思い出

大地「終わるの遅いーっ!!」

廉 「お前が勝手に待ってたんだろうが。」

柚月「大地君、どうしたの?何かあったの?」

大地「あのさ!今から海に行かない!?」

廉 「海!?」


まこはこれから久々に光希さんと会う約束が出来たらしく、大地君と顔を合わす事無く慌てて帰って行った。

残されたあたしと廉は、大地君の突然な提案に顔を合わせる。


柚月「あたしは別にいいけど、廉は?」

廉 「俺も別に・・・。」

大地「やったぁ!じゃぁさ、花火買って海で花火しようよ!!」


テンション的にはいつもと変わらない大地君。

でも、表情がどことなく元気なさそうな気がしたが、とりあえず花火を購入し、あたしだけバイトに徒歩で来ていた為、廉の自転車の後ろに乗せてもらい、40程の道のりをゆっくり走りながら海に到着した。


柚月「海なんて久しぶり!!」

廉 「柚月、はしゃぎ過ぎて転ぶなよ。」

大地「まだ暗くなるまで時間あるからさ、砂でお城作ろうよ!」

廉 「俺、腹減った。」

柚月「あたしも。」

大地「そうだと思って、実はお弁当も作って来たんだよね!!」


大ちゃん、用意周到過ぎる。自転車のかごから重箱が登場し、おにぎりやサンドイッチ、唐揚げに卵焼き等、沢山の美味しそうな品々が綺麗に敷き詰められてあった。


廉 「これ、全部お前が作ったの!?」

大地「そうだよー!!凄いでしょ!?だから撫で・・・」

廉 「撫でねーよ(笑)」

柚月「でも、本当に美味しそう!!頂きます!」

大地「沢山食べてぇー!!」


見た目良し、味良し、バランス良し。

これは完全に敗北・・・。

きっと、家でもこうやって下の子達に作ってあげてるからなのだろう。あたしは心に底から凄いと思い、そして尊敬した。


大地「廉君、美味しい?」

廉 「腹減ってるからうまい。」

大地「ブス、自分の情けなさに気付いた!?」

柚月「一言余計だけど、圧巻しました。」

大地「良かった!!」

廉 「大地は食わないの?」

大地「大ちゃんは、胸がおっぱいで食べれないーっ!!」

廉 「はいはい。」


呆れ顔の廉。でも、今のこの状況をとても楽しんでるのが分かる。

綺麗な夕陽がもうすぐ海の中へと沈んでいく。

「綺麗・・・。」そう思いながらも、ふと疑問に感じた事があった。


柚月「大地君、お家大丈夫なの!?もうすぐ夜だよ?」

大地「うん。今日だけは時間あるんだ。だから、二人にお願いがあるの。」

廉 「お願い?撫でねーよ?」

大地「あんっ!ちっがーうの!!あのね・・・」


『明日の夕方まで、僕に二人の時間を貰えないかな?』


廉 「明日の?・・・夜通しでって事?」

大地「うん!ダメかな!?」


あたしと廉が顔を見合わせる。『きっと、何かあっての事なのだろう』そうとしか捉えられなかった。

そして、もしそうだったとしたら・・・


廉 「まぁ、暇だし。俺はいいよ。」

柚月「あたしも大丈夫!楽しそう!!」

大地「ありがとう。」


言いたくない事もあるだろう。

聞かれたくない事だってあるだろう。


あたしと廉にとって、大地君は『かけがえのない友達』。

理由なんてどうでもいい。思い切り遊んで、高校生活の思い出を沢山作りたい。


そう思い、願っていたのはあたしと廉以上に大地君であった事を、後々知る事となった。

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