第142話 命の誕生

まこ「柚月っ!?」

柚月「破水・・・したのっ!!」

まこ「えっ!?だって、まだ予定日はっ!!」

光希「どうしたっ!?」

まこ「柚月が破水したってっ・・・!!」

光希「病院に向かおう!!柚月ちゃん、ゆっくりでいいから歩ける!?」

柚月「大丈夫です・・・」


どうして?まだ予定日は先なのに。

もし、もしこの子に何かがあったら・・・


柚月「うわっ!!」

大地「お姫様抱っこの方が早い。」

まこ「大地、大丈夫!?」

大地「恩返しするんだ。大事な仲間の為に・・・」


あたしは大地君に抱き抱えられ、光希さんの車に乗せられた。

そして、車内で病院に破水した事を連絡。

『今すぐ来て下さい』

そう言われたあたし達は、出産予定の病院へと向かった。


光希さんがあたしの親に電話をしてくれていたおかげで、出産用品はお母さんが結芽さんと一緒に一足早く病院に着いていた。


柚月「お母さんっ!どうしようっ・・・!!」

結芽「大丈夫。柚月ちゃん、落ち着いて。」


『このまま、分娩室に入って頂きます。』


助産師にそう言われ、あたしの不安は一層募る。


柚月「まこっ・・・」

まこ「大丈夫だよ、柚月。」

光希「俺らみんながついてるから、安心して。」

大地「柚月ちゃん、指輪が守ってくれるよ。頑張って!!」

柚月「指・・・輪。」


右手の薬指にはめられてある指輪。

廉からもらった大切な『お守り』。

そして、あたしの首には廉の指輪がネックレスとしてかけられてある。


そうだ。あたしはこれから『母親』になるんだ。

泣き言なんて言ってる暇はないんだ・・・。


柚月「頑張って来る。」

母親「柚月。」

柚月「何?」

母親「廉君との宝物、何がなんでも守って来なさい!!」

柚月「・・・はい!!」


破水から陣痛に移り・・・、それは想像を絶するものだった。

痛くて怖くて、一分がとても長く思えて仕方なくて・・・。

何度も心が折れそうにもなった。

でも、その度に薬指の指輪を見つめては『頑張らなければ』と踏ん張るあたし。

そんなやりとりが何度も何度も続き・・・。


まこ「柚月、大丈夫かな!?」

光希「大丈夫。廉が守ってくれてるよ。」

結芽「そうね、廉が・・・」

大地「あっ!!!!」


それはそれは小さい命。

でも、一生懸命産声を上げて『ここにいるよ』と知らせを告げてくれた。


『おめでとうございます!よく頑張りましたね!!』


柚月「はい、ありがとう・・・ございます・・・」


涙が溢れ、あたしの胸元には、つい先ほどまでお腹の中にいたはずの『我が子』がタオルにくるまれながら眠っている。


柚月「廉、生まれたよ。あたし達の大事な宝物が・・・」


あの日、言い合った言葉。

『世界一愛してる』

この言葉の意味を。

この子の父親がどんな人だったのかを。

これからゆっくりと、時間を掛けて伝えて行こう。


人を愛する意味を、命の大切さを・・・

大事に大事に教えてあげよう。


廉と、そして大事な仲間達の手を借りながら・・・。


八月二十日。

午後七時十六分。七色の時間にこの子は生まれた。


柚月「やっと会えたね。初めまして。」


『宝物』がこの世に誕生した。


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