第141話 大地君の想い。
大地「ひやっはーーっ!!ちべたい!!」
光希「なぁ、大地君っていつもこんななの?」
柚月「スイッチのONとOFFがあるみたいです。」
まこ「OFF探そっか。」
まったりとしたい夏の海。家族連れや学生で賑わっていた。
あたし達もその中の一人。なのに、ほぼ全員の視線があたし達に向けられていた。
光希「ちょ、ちょっと大地君何してんのっ!?」
大地「え?カニがいたから、本当に挟んでくれるかどうか試したいなぁって。」
まこ「どこ挟めるつもりなのよ。」
柚月「は、恥ずかしいよ・・・。」
小学生並のハシャギっぷり。光希さんは半ば呆れ顔・・・。
まこ「もうすぐ夏休みも終わるね。」
柚月「うん、本当にあっという間。」
まこ「お腹、大丈夫?」
柚月「うん、平気。」
高校生、最後の夏。
まことこうして毎日一緒にいれるのも、今だけなのだろう。
柚月「進路、決めたの?」
まこ「うん、美容系の専門学校に行く。柚月は?」
柚月「あたしは・・・」
大地「ブス!!ちょっと助けてっ!」
柚月「えっ!?あたし!?」
大地「早く!!」
あたしが慌てて大地君の所へ向かうと、何て事ない。
ただ、海が引く時に感じる、身体が海に引き寄せられる感覚に怯えていただけだった。
柚月「あんた、何してんの?」
大地「柚月ちゃん。少しは落ち着いたの?」
突然、ガラリと雰囲気が変わった大地君。
あたしは何かトリックがあるのではないかと戦闘態勢を取った。
柚月「な、なに急に!?」
大地「今日、どうしても海に来たかったんだ。柚月ちゃんと。」
柚月「・・・どうして?」
大地「あの日の想い出を、切ない想い出にしたままにして欲しくなくて。」
廉の自転車の後ろにまたがり、大地君のお弁当を食べ、花火をして夜通して遊んで・・・。
廉はあの日、この海で指輪をあたしにくれた。
凄く嬉しくて、幸せ過ぎて。
あんな日が、ずっとこの先も続くんだって・・・そう思ってた。
大地「廉君、僕に言った言葉があるんだ。」
柚月「何を?」
『柚月と必ず結婚するんだ。』
大地「いつも笑わせて、いつも幸せって思って貰える様に頑張るんだって。」
柚月「廉が・・・?」
大地「僕、思うんだ。例え結婚していなくても、苗字が一緒じゃなくても・・・」
『心さえお互い通じていれば、それで夫婦になれるんじゃないかって。』
大地「柚月ちゃんはこれからも沢山笑って、いつも幸せを感じて欲しい。」
柚月「大地君・・・」
大地「廉君が願っていた事を、これから柚月ちゃんがお腹の赤ちゃんと一緒に叶えて行って?」
廉が願っていた事・・・。
廉が隣にいなくても、もう二度と会えなくても、あたしにはこの子がいる。
廉がくれた、最後の贈り物・・・。最高の宝物・・・。
柚月「それを、わざわざ言いに来てくれたのね。」
大地「二人には返せない程の恩があるんだ。二人に出逢ってなかったら、僕は・・・」
柚月「ううん。大地君は強い人。あたしなんかよりもずっと。」
大地「僕も頑張るよ。だから、柚月ちゃんも・・・」
『パンッ・・・』
柚月「あっ・・・」
それは、あまりにも突然の事だった。
お腹の中で何かが弾けた音が聞こえたと同時に両足の付け根からタラタラと水が滴り落ちて来て・・・
『破水』
あたしは、恐怖のあまりまこを呼んだ。
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