第134話 廉との対面

地下室へ降り、薄暗い廊下を走りながらようやく見つけた場所。


『霊安室』


運ばれたばかりなのか、看護師が『松澤廉様の身内の方ですか?』とあたしに問い掛けて来た。ただ黙って頷くと、あたしに一礼した後、その看護師はすぐに姿を消した。

あたしはドアノブを回し、更に薄暗くひんやりとしている霊安室の中へと入る。

すると、線香の匂いと共に、一台のストレッチャーらしきものを発見した。


顔には布が掛けられてあり、静まり返る室内の中、あたしはその布をそっと外した。


柚月「寝てるの・・・?」


顔に軽い擦り傷こそあるものの、その他はとても綺麗なままで・・・。

『いつもと変わらない廉』

それなのに・・・。


柚月「廉?クリスマスデート・・・行こ?今ならまだ・・・」

まこ「柚月。」

柚月「まこ、廉が起きてくれないの。」

まこ「柚月、廉君は・・・」

柚月「四人で光のページェント見に行こうよ。あたし、廉と初めてのクリスマスデートなんだから。」


『廉君は死んだんだよ』


まこまで冗談を言うの?今日はエイプリルフールじゃないのに。

どうしてみんなは、あたしを騙そうとするの?

もしかして、これが廉のサプライズプレゼントなの!?


光希「柚月ちゃん。」

柚月「光希さん、一緒に廉を起こすの手伝って貰えますか?」

光希「柚月ちゃんっ!!」

柚月「寝てるだけなんです。寝たフリなのかな?」

まこ「柚月っ!!」


お願い。

あたしを現実の世界に戻さないで。

廉は寝ているだけ。それでいい。

そのうち、絶対目を覚ますんだから。


それまで、あたしは待つだけなんだから・・・。


桂太「光希、まこちゃん、無理強いはするな。」

光希「親父!!」


姿を現した桂太先生が、あたしをきつく抱き締めた。


桂太「古川、疲れただろ?少し休むといい。自宅に送る。」

柚月「違うんです、桂太先生。あたしは廉とっ・・・」

桂太「混乱してるんだよ。大丈夫、今すぐ受け止めろなんて言わない。」


『ゆっくり、時間をかけて現実を受け止められればいいんだ。』


桂太先生の言葉に勝手に涙が流れる。


柚月「桂太先生?」

桂太「ん?」

柚月「廉は・・・死んじゃったの?」

桂太「死んだんじゃないよ。」


『拓に会いに行ったんだ。』


それ以降の記憶はない。

目を覚ましたあたしの目に入ったのは、翌朝。


柚月「あれ・・・?」


自分の部屋でまこが心配そうにあたしの顔を覗いていた姿だった。


柚月「まこ・・・」

まこ「柚月、大丈夫?」

柚月「廉は?廉はどこ?」

まこ「廉君は、お家に帰ったよ。」

柚月「やっぱり夢だったんだね!?今から会いにっ・・・」

まこ「・・・行こうか。廉君の家に。」


廉は生きてる。

だって、ずっと一緒にいようねって。

・・・そう、約束したんだから。


まこ「柚月、制服着てくれる?」

柚月「どうして?・・・あ、まこも制服だ。」

まこ「制服を着て行かなきゃ行けないの。だから、着替えて?」

柚月「分かった。」


私服を脱ぎ捨て、高校の制服に着替えたあたし。

そして、これから廉の家に向かって・・・廉に会う。

あたしの頭はまだ現実逃避のまま、まこに連れられ家を出た。












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