第34話 生みの親、育ての親

譲 「光希だけは知ってるんだ。俺の病気の事。」

柚月「家族は知らないんですか?」

譲 「本当の親はね。・・・俺、捨て子だから。特別養子縁組ってやつなの。」


『特別養子縁組』

何らかの理由で、生みの親が育てる事が出来ない子供を育ての親に託し、子供と育ての親は家庭裁判所の審判によって戸籍上も実の親子となるという。

子供が生涯に渡り、安定した家庭で特定の大人の愛情に包まれて育つために作られたもの・・・。


柚月「じゃぁ、今の家族には・・・。」

譲 「俺が中学生の時、偶然にも親が話していたのが聞こえちゃってさ。仲が悪いわけでは無かったんだけど、高校は寮付きの学校に入ったんだよね。それで、今は一人暮らしかな。」

柚月「そうだったんですね・・・。」

譲 「病気の事は知っているけど、少しづつお互いに連絡も無くなって。だから、今の病気の状態は話してないんだ。」

柚月「いいんですか?このままで。」

譲 「うん。だって本当の子供でもない俺をここまで・・・」

柚月「そうじゃないです。本当の・・・、譲さんを産んでくれた両親とは、会いたいと思ったりしないんですか?」

譲 「・・・なんて言ったらいいのかなぁ。」


「俺は、きっと望まれて生まれた子じゃないから。」

「光希だけが、俺を見捨てないでくれてるんだよ。」

・・・あたしは後悔した。

今日、初めて会ったばかりなのに、こんなに沢山の過去を掘り返させてしまった。誰にだって言いたくない、聞かれたくない過去がある。

そう・・・。

廉の事に例えれば、自分だって同じだったのに・・・。


柚月「ごめんなさい。辛い話聞いてしまって。」

譲 「一番辛いのは光希だよ。」

柚月「光希さん?」

譲 「『俺の最期を看取る』って。光希は、俺がこの世から居なくなるまで、その約束に縛られて生きて行くんだよ。」

柚月「約・・・束?」

譲 「そう。俺と光希だけの約束。」


「約束」

桂太先生が以前、あたしに話してくれた廉のお父さんとの約束が蘇った。

誰に恨まれようとも、どんなに悪者にされようとも。決して破らず、今でも守り続けている約束。

そんな二人と光希さんと譲さんが、あたしの中でリンクしてしまった。


譲 「転移性脳腫瘍。」

柚月「脳腫瘍?」

譲 「俺の病名。今でも怖いよ。明日の自分がどうなっているのか。これからどう過ごしていけるのか。・・・でもね、光希が俺に言ってくれたんだ。」


『誰かが誰かを幸せにして。そして、その幸せは必ず自分にもやって来る』


譲 「病気に負けるな。最期まで一緒に生きよう。って。」


光希さんが譲さんに向けた精一杯のエール。

この言葉に、譲さんはどれだけ励まされたのだろう?


譲 「柚月ちゃん、きっとこれが最後の締め花火だよ。」

柚月「譲さん。」

譲 「ん?」

柚月「きっと・・・、また会いましょうね。」


とても大きく打ち上げられた一発の花火。

それが、シャワーのようにゆっくり地面へと落ちて行く。

「また会いましょうね」と言ったあたしの言葉。どんなに耳を澄ませてみても「うん」という返事は聞こえて来なかった。


花火大会が終わり、光希さんとまこが溶けたかき氷を持ちながら戻って来た。その時のまこの曇った表情が気になったが、それと同時に廉の姿がいつの間にか居なくってしまっていた事に気付いた。

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