第114話 取り戻せない過去を塗り替える日。

廉 「・・・隣の県?」


職員室に入り、部活の指導でたまたまいた担任に大地君の新しい住所を聞いた。

どうして引っ越しになったのか、どうして黙って去って行ってしまだたのか・・・。謎に包まれたままたが、先生も新しい住所までは分からないらしく、ただ唯一。大地君が通う事になる予定の高校の名前は聞き出す事が出来た。


柚月「先生、ありがとうございました。」


担任に頭を下げ、あたしと廉は昇降口へと向かう。


柚月「廉。大地君に電話してみたら?」

廉 「昨日の夜、とっくにしてみたよ。でも、出ない。」

柚月「そっかぁ。」

廉 「柚月、デートしようぜ。」

柚月「え?デート!?」

廉 「隣の県に。」

柚月「今から!?」

廉 「いや、始業式の日に。」

柚月「・・・いい提案ですねぇ!賛成!!」


始業式まで約二週間。

まだまだ時間はあるけれど、大地君と会える確率が一番高いのは『始業式』。

大地君の下校時間を狙って突撃する。

それしか、大地君に会える方法が思い浮かばない・・・。


廉 「まぁ、それまでの間は俺達もバイトあるし。」

柚月「そうだね。給料も入るから資金もあるし。」

廉 「バイトまで時間あるし、久々に裏の公園行こうぜ。」


廉の提案で来た、久しぶりの公園。色々な思い出があたしの頭を駆け巡る。


柚月「ここで派手に転んだ事あったなぁ。」

廉 「熱あったのに、俺を探しに来てくれたんだよな。」

柚月「あの時は、廉にしがみつく事で精一杯だった。」

廉 「今思うと、俺って最低だよな・・・。」


思い返すと、いい思い出の方が少ない位に様々な事があった。

廉を追い掛け、もう少しで捕まえられそうな所でまた距離が離れ・・・、心が折れそうになりながらも廉との距離を少しでも縮めたくて一生懸命だった。


廉 「ごめんな、柚月。」

柚月「あの日々があってこその今だよ。」

廉 「かっこつけてお前に散々冷たくして。アホだよな。」

柚月「今が幸せなら、それでいいとあたしは思ってるよ。」


過去には戻れない。未来も変えれやしない。あたし達はただ、何本にも分かれ、敷かれてある長い長い線を信じて歩くだけ。


柚月「この公園も、今日廉と来れた事でいい思い出に塗り替える事が出来たし。」

廉 「俺も。」

柚月「過去は変えれないけど、綺麗な色を上塗りする事は出来るんだよ。」

廉 「こんな不甲斐ない俺ですが、宜しくお願いします。」

柚月「こちらこそ、宜しくお願いします。」

廉 「柚月、目に何か付いてる。」

柚月「えっ?」


振り向き様にされた廉からのキス。

まだまだ明るい昼間に、まさか廉からこんな事をされるなんて夢にも思わず・・・。あたしの顔は恥ずかしさできっと真っ赤だろう。


廉 「ちゃんと恋人っぽい事、出来てる?」

柚月「・・・恥ずかしい位出来てます。」

廉 「もっとします?」

柚月「いや、もう結構です・・・。」


グイグイ来る廉に、タジタジなあたし。

ここまで廉が強引になるなんて、本当に考えられない。

どんな態度を取るのが正解なのか、あたしは挙動不審になってしまう。


廉 「柚月。」

柚月「はいぃぃっ!?」

廉 「もう何もしねーよ(笑)」

柚月「え?あ、そう!?」

廉 「『今日は』ね。」


思う存分イチャついたあたしと廉は、この後公園を手を繋ぎながら軽く散歩した後、バイトへと向かった。


そして、週に五回入っていた地獄のバイトもあっという間に終わりが近付き・・・。

『始業式』当日。


あたしと廉は、大地君探しに出掛けた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る