第137話 奇跡的な運命。

あれから数ヶ月が経過。

あたしは毎朝まこに迎えに来て貰い、二年生残り僅かの学校生活を何とか送っていた。

教室に入る度、目にする花瓶に挿された花。

枯れる言葉無く、クラスメイトが二日置きに新しい花を購入し、廉の死を忘れない様にと飾ってくれていた。

そして。


柚月「おはよ。廉。」


教室の後ろの壁一面にもクラスメイトと戯れている廉の数々の写真が沢山貼られてあり・・・


『一生忘れない』


この言葉に勝手に周りには、クラス会全員から廉へ向けたメッセージが書かれていた。

あの後、廉の死が校長から全校生徒へ告げられ、『飲酒運転』の恐ろしさを教えられ・・・。それはインターネットを通じて一時拡散された事もあった。


廉のファンだった生徒達は、毎朝クラスに顔を出し、手紙を置いてってくれている。

あたしとまこはどんどん溜まる手紙を廉の家に持ち帰り、仏壇の前に置く作業をずっと続けていた。


そして、季節は2月半ば・・・。

学校が終わったあたしは、結芽さんの安否確認も含め、廉の家に寄ることにした。


柚月「お邪魔します。」

結芽「あ、柚月ちゃん。お帰りなさい。」


あの日を境に、結芽さんは看護師という仕事から離れた。

心臓マッサージを受け継いだあの時、助けられなかったという無念さが拭いきれないまま、現在に至っている。


柚月「結芽さん、また何も食べてないんですか?」

結芽「あぁ・・・、あんまりお腹空かなくて。」

柚月「たこ焼き、買ってきたんです。一緒に食べましょ?」

結芽「ありがとう。今、コーヒー淹れるね。」

柚月「はい。じゃぁ、あたし廉に挨拶して来ます。」


『少しでも結芽さんの支えになってあげたい。』


その想いであたしも何とか気丈に生活出来ていた。

でも、廉の遺影を前にするとどうしても涙が出てしまう。


柚月「廉、ただいま。」


『お帰り』


そう聞こえる様な気がして、少しだけ心が温かくなる。

あたしはお線香を上げた後、リビングへと戻り結芽さんが淹れてくれたコーヒーに口をつけた。


柚月「うっ・・・!!」

結芽「どうしたの?」


あたしは慌ててトイレへと駆け込み、突然襲ってきた吐き気に一瞬戸惑いを感じた。


結芽「柚月ちゃん!?大丈夫!?」

柚月「はい。ちょっと気持ち悪くなっちゃって・・・」


この数ヶ月、廉の事ばかりを考えていてすっかり忘れていた。


柚月「結芽さん。」

結芽「どうした?」

柚月「あたし、去年から生理が来てないです。」

結芽「え!?」


あの時・・・。

初めて廉とした日。ちゃんと『避妊』をしていなかった。

その事を結芽さんに告げると、


『待ってて。検査薬買って来るから!!』


結芽さんが薬局まで妊娠検査薬を買いに行ってくれた。

リビングに戻ったあたしは、お腹に手を当てる。


柚月「もしかしたら・・・」


数十分後、薬局から戻った結芽さんに渡された妊娠検査薬を、あたしはトイレを借りて使った。


一分待たなければいけないという、あたしと結芽さんにとってはとても長く感じる時間。


柚月「結芽さん・・・」

結芽「せーので一緒に見よう。」


『せーのっ!!』


終了の所に縦の線が一本。そして・・・

『判定』の横にも縦の線が一本。


『陽性』


あたしのお腹の中に、新しい命が宿っている事が判明した。











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