第136話 飲酒運転の被害者の現実。

斎場からバスで十分程にある火葬場。

廉の棺は降ろされ、まこや光希さん、みんなが廉の周りを囲んだ。


『最期のお別れとなります。』


この言葉に、沈黙を貫いていた結芽さんが動いた。


結芽「お願いしますっ!!廉を返して下さいっ!!」

桂太「結芽ちゃん!!」

結芽「お願いします!!あたしが代わりに焼かれますから!!廉はまだ高校生なんです!!まだまだ未来があるんですっ・・・!!」


いつもあんなに明るい結芽さんが。

笑顔を絶やした事の無い結芽さんが。


こんなにも取り乱して、泣きながら廉の棺を抱き抱えている。


菜緒「結芽!!」

結芽「菜緒、ねぇそうでしょ!?あたしより先に死ぬなんて、説教しなきゃいけないんだからっ!!」

桂太「結芽ちゃん!!廉は交通事故で死んだんだっ!!」


『あたしから廉まで取らないでっ・・・!!』


泣き叫ぶ結芽さんの身体を、桂太先生と菜緒さんが泣きながら引き離し、廉の棺は火葬部屋の中へと押し込まれる。


柚月「・・・めて。」

まこ「柚月!?」

柚月「やめて!もうドッキリはいいからっ!分かったからもうやめてっ!!」

まこ「光希っ!」

光希「柚月ちゃん!!廉は死んだんだよ!」

柚月「嘘つきっ!!廉は死んでなんかないっ!!生きてる!」

光希「嘘じゃない!!クリスマスの待ち合わせに向かう途中で交通事故に遭ったんだよ!!」

柚月「嫌だっ、廉!廉っ!!」

まこ「柚月っ!!辛いのはみんな一緒なんだよっ!!」

柚月「廉をっ・・・殺さないで・・・お願い・・・」


少しずつ鮮明に思い出す記憶。

クリスマスの日、あたしは六時半に廉を待っていた。

待ち望んでいた。

でも、廉はいつまで経っても来なくて・・・。


廉の棺が入った扉は鍵を掛けられ、『ボッ』という音と共に火が着けられた。


結芽「廉っ!!止めて!!今すぐ火を止めて!!」

桂太「菜緒っ!!結芽ちゃんを一旦外に!!」

結芽「あたしがっ、あたしがあの時廉を死なせてしまったっ・・・!!」


菜緒さんに身体を押さえられ、興奮状態の結芽さんは火葬場の外へと連れ出された。

あたしは半分記憶が戻った状態で、焼かれていく炎の音を聞きながら廉がこの世にいないという現実を、少しずつ受け入れようとしていた。


柚月「まこ?」

まこ「ん?どうした?」

柚月「あたしは、もう廉に会えないの?」

まこ「廉はいつでも柚月の側にいるよ。」


まこがあたしの手を握った時に感じた違和感。

手を開いてみると、そこにはもう一つの指輪があたしの掌に置かれてあった。


柚月「これ・・・。」

まこ「廉君の。ここに廉君の柚月への想いが沢山詰まってるでしょ!?」


『身体は無くなっても、想いは消えないんだよ。』


まこの言葉に、咳をきったかの様に泣き出すあたし。

『お守り』そう言ってあたしの右手の薬指に、今もはめられてある指輪。

そして、もう一つの指輪は廉の『想い』。


・・・そうだ。

廉との今までの想い出は、あたしの目にしっかりと焼き付けられていて、それは消える事のない一生の『宝物』なんだ・・・。


光希「柚月ちゃん。廉が心配してるよ?」

まこ「そうだよ!?いつまでも泣いてたら、婚約破棄されちゃうよ!?」

光希「婚姻書まで用意してたんだ。廉は間違いなく・・・」


『世界一柚月ちゃんを愛していたんだよ。』


どうか今だけ。今、この瞬間だけ・・・。

涙が枯れる程泣かせて欲しい。

立ち上がれる様に。また、前を向いて歩く為に。

・・・廉があたしの心の中にいると信じて。


柚月「まこ、少しだけ胸貸して?」

まこ「いくらでも貸してあげるっ!!」


物心ついてから、初めて大きな声を出して泣いた日。

この日を、あたしは一生忘れる事はないだろう。

そして、クリスマスの日の出来事も・・・。


光希「廉・・・、柚月ちゃんを泣かせた罪はでかいからな。」


みんなが悲しみに明け暮れた日。

みんなが『飲酒運転』を、これ程までに憎んだ日・・・。


あたしはこの日、『一生一人で生きていく』事を心に決めた。












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