第97話 ピンチはチャンス

廉 「・・・おい。」

結芽「え?何!?」

廉 「何じゃなくて!!何で俺の部屋にいるの?」

結芽「困った事があったら教えてあげようかと思って?」


廉の部屋にポツンと三人、仲良く体育座りをしているこの光景・・・。

あたしとしては、結芽さんが居てくれる事で、廉の暴走が抑えられているのが有難い。


廉 「俺は柚月と二人になりたいの!!」

結芽「そうね・・・。あたしがいたら緊張するもんね。」

廉 「単に邪魔なだけ!」

結芽「柚月ちゃんっ!!」

柚月「は、はい!?」

結芽「ピンチはチャンスよ!!さらば!!」

廉 「早く消え去れ。」


結芽さんは、あたしに謎のガッツポーズを見せ、そそくさと部屋から撤退していった。

・・・となると、部屋にはあたしと廉の二人きり。

そういえば、こうして恋人らしい時間を作るのは凄く久しぶりかも知れなない。


何だか・・・無駄に緊張する。


廉 「さてさて。」

柚月「えっ!!」

廉 「まったりしようぜ。」

柚月「・・・まったり?」

廉 「バーカ。俺様を見くびんなよ。乗り気じゃない女の子相手に無理矢理やる程クズじゃねーよ!!」

柚月「だって、クラスのみんなに宣言までしちゃったし・・・。」

廉 「俺は柚月がその気になってくれるまで待つよ。まぁ、俺だって男だし、そう言う欲がない訳でもないけど。」


何だか、申し訳なくなって来た。

まこや大地君の言う通り、あたし達は付き合ってだいぶ経つのに未だ「幼馴染み感覚」が抜けていない。

あたしがあまりにも子供過ぎるが故に、全然進歩がない。

あと一歩の勇気があれば・・・。


柚月「ごめんね、廉。」

廉 「別に謝る事じゃねぇだろ。・・・でもさ、不思議な事に日に日にお前を想う気持ちは強くなってるんだよなぁ。」

柚月「・・・うん、それはあたしも同じ。」

廉 「今までの時間を取り戻すかの様に、もっと沢山柚月を幸せにしたいって、ちゃんと心から思える様になったんだ。」


やっと・・・本当の廉に出逢えた気がした。

廉のお父さん・・・、拓さんがいなくなってからの廉は笑顔も消え、殻に閉じ籠り・・・。

そんな廉に、あたしは今まで必死にしがみっく事しか出来ずにいた。

そして、いつからかあたし自身も本当の廉がどんな性格だったのか。昔の廉はどんな人だったのか・・・。わからなくなってしまっていた。


沢山の出来事があり、沢山の出会いがあり。

廉はその中で日々葛藤しながら本当の自分を取り戻す事が出来た。

きっと、廉の中で残されたままだった傷跡が消え、もがいては絡まっていた糸がほどけ・・・。

ありのままを自分を、ようやく許せる様になったのだとああたしは思った。


廉 「今までの分、倍にして柚月がいつも笑顔で入れる様に頑張るよ。」

柚月「ううん、あたしだけじゃなくて廉も笑顔にならなきゃ意味がないんだよ?」

廉 「好きだ、柚月。」


廉の顔が近付く。全然怖くなんてない。緊張もしない。

今ある感情が、安心と「触れて欲しい」という素直な想い・・・。


溢れ出して止まらない「廉を好き」と思える気持ち。

あたしは廉の首を両手を回し、そのままベットへと倒れた。

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