第29話 恋のキューピット

まこ「柚月!!」


混雑タイムもなんとか終わり、バタバタと後片付けをしている間に、気付けば廉達の姿もいなくなっていた。

眩しかった陽射しもだいぶ落ち着き、バイト終了時刻が残り一時間となった時、まこがはしゃぎながらあたしの元へと駆け寄ってきた。


柚月「どうしたの?あたし、もうヘトヘトで・・・。」

まこ「光希君来たっ!!」

柚月「光希君・・・?あぁ、昼間話したまこの好きな人?」

まこ「そう!柚月にかかってるんだからね!?ノルマ達成した際には、柚月の頼み事、聞いてあげるから!!」

柚月「まぁ、まずは話した事も無いだろうから、挨拶から・・・」

光希「おはようございます!お疲れ様です!」


「爽やか」「イケメン」「スタイル良し」

拍手喝采とも言える三拍子が揃った好青年。

こんな人が働いていたなんて全然知らなかったあたしは、今までどれだけ自分に余裕が無かったのかが身に染みて感じた。


まこ「柚月っ」

柚月「え!?もう?」

まこ「だって時間が無いんだもん。お願い!」

柚月「えぇー・・・。」

光希「まこちゃん、お疲れ様!」

まこ「お疲れ様です!!」

光希「古川さんもお疲れ様・・・って、何か俺の顔に付いてる?」


まこの視線が猛烈に痛い・・・。

話し掛けるきっかけを光希さんから振ってくれた。

まさに、今が絶好のタイミング。


柚月「光希さん!!」

光希「何?」

柚月「は、花火大会っ!!」

光希「花火大会?あぁ、来月頭にあるやつ?」

柚月「い、行こうではないか!!」

光希「え?」

まこ「昔の人入ってる・・・。」


「逆ナンパ」むしろ半分強制。

光希さんは事の内容を把握し切れていない様子で、まこはと言うと、溜息を付いて肩を落としている。

「名誉挽回せねば」

あたしの脳裏に第二回戦のゴングが鳴った。


柚月「突然すみません!まずは・・・初めまして。」

光希「初めましてではないんだけど・・・(笑)俺って存在感薄いかな?」

柚月「いえ、真っ黒なくらいに濃いです。」

まこ「それは失礼です。」

柚月「光希さんって、好きな人とか彼女とか、いる訳ないですよね?」

まこ「凄い失礼です!!」

光希「古川さんって面白い人だね(笑)今は好きな人も彼女もいないよ。」


アドレナリンが最大限に放出していたのだろう。「無敵」にも近いあたしの無礼さに、さぞかしまこはハラハラしていた事であろう。

でも、変わらず三拍子を崩す事のない光希さんは、笑顔であたしの失礼極まりない質問に答えてくれた。


柚月「いないんですね?」

光希「うん、いないよ。」

柚月「その他、何か質問はありますか?」

光希「授業中・・・なの?」

柚月「では!!多数決によって来月の花火大会に参加する事を許可します!!」


「はい?」

まこと光希さんが綺麗にハモってくれた。

自分の恋ですら宙ぶらりんのくせに、人の恋のキューピット役なんて、至難の技という事を最初から分かっていた。でも、

「まこに少しでも今までの恩返しが出来たら」

その思いだけが先走っていた。


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