第30話 心優しき人

まこ「柚月っ、ちょっと失礼だよ!光希君、ごめんなさい。」

光希「あはは!古川さんって少し変わってて面白いね!!」

柚月「よし、行こう。・・・で、来月のいつなの?」

光希「日にちも分からないのに誘ってくれたの?(笑)」

まこ「柚月ぃー・・・。」

光希「いいよ!行こうかっ!!」


失敗に終わってしまったと、猛反省をしようとしたところだった。

ポカンと口を開け、光希さんの返事に驚くまこ。そして、何よりも一番に驚いたのはあたし。ちんぷんかんなナンパに快く許可してくれる光希さんが大仏様のように感じる。

もう少し苦戦するかと思いきや、案外あっさりと花火大会に行く約束が決まってしまった。


まこ「ほ、本当ですか!?」

光希「うん。俺も、その日休みだし!・・・あ、でもバイト三人も休んじゃったら流石にまずいかかな?」

柚月「大丈夫です。あたし、その日バイト入りますから。まこは休んでね!」

まこ「え?だって、柚月も一緒に行くんだよ?」

柚月「行きます。バイトは入るけど、その時間帯になったら仮病使って早退するから大丈夫!」

光希「なるほどね(笑)あ、もし良ければなんだけど、俺の友達も誘っていいかな?」

まこ「全然大丈夫です。ね、柚月?」

柚月「どんな人でも受け入れます。」


それから、まこと光希さんはLINEを交換し、あたし達のバイトの時間は終わった。

帰り道、息が出来ない位にあたしを抱きしめるまこの笑顔が本当に嬉しそうで、なんだかあたしまでにやけてしまった。

「浴衣、一緒に着て行こうね。」

満面の笑みでそう言い合い、まことあたしは別れた。


柚月「花火大会かぁ・・・。」


去年の花火大会は廉と行った。一昨年も、その前も。

今年も、当たり前の様に廉と行くのだと思っていた。

その「当たり前」の事が消えてしまった虚無感は、本当に寂しい。


柚月(廉は誰と行くのかな・・・。具然でもいいから、会えたらいいな。)


発展する恋と、しない恋。

でも、発展していないだけであって、終わりではない。

あたしと廉は付き合った訳でもないし、別れた訳でもない。今はただじっと我慢の時・・・。

「織姫と彦星なんて一年に一度しか会えないんだから」

そう、自分に言い聞かせながら、あたしは廉への想いを溜息と一緒に空へと飛ばした。


そして8月。

まこが待ちに待っていた花火大会当日がやって来た。


まこ「あ、来た来た!!柚月こっち!!」

柚月「浴衣歩きづらい・・・。遅くなってごめんね。」

光希「お疲れ様!慌てなくても大丈夫だよ、一旦落ち着こう?」


「ひたすら気持ちが悪いんですが」

バイトの店長に体調悪いアピールをし、あたしは一度自宅へ戻り浴衣へと着替えた。

あ母さんは、あたしが今年も廉と行くと思っていたのか、張り切って頭のセットや着付けを手伝ってくれた。更には「今夜は多少遅くなってもいいからね!!」

と、不謹慎発言まで言い出し、毎年の如く、笑顔で送り出してくれた。


まこ「柚月の浴衣、可愛い!!黒い浴衣、いいなぁ・・・。」

柚月「そう?あたし的にはまこのピンクの方が女の子らしくて可愛いと思うけど。」

光希「まこちゃんも古川さんも可愛いよ・・・。っていうか、俺も「柚月ちゃん」って呼んでもいい?」

柚月「あ、どうぞどうぞ。」

光希「ありがとう。それにしても、あいつ遅いな・・・。電話も出ないし。」


光希さんに「可愛い」と褒められ、照れているまこが可愛い。

それにしても、毎年同様この花火大会はたくさんの人で賑わっている。出店は行列をなしていて、川沿いの石垣には人の壁で埋め尽くされていた。


光希「あ、やっと来た!!おい!譲!!」

譲 「ごめん!!通る人避けながら来てたら中々前に進めなくて。」

光希「まこちゃん、柚月ちゃん。こいつが俺の大学の友達の譲(ゆずる)。」

まこ「譲さん、初めまして。まこです。」

譲 「まこちゃん、宜しくね。高校生かぁ、羨ましいなぁ。」

光希「で、こちらが柚月ちゃ・・・、柚月ちゃん?」


「廉」

いつも、ふとした瞬間に蘇ってくる記憶。

「気を付けて歩けよ」

おぼつかないあたしの腕を掴んでは、廉はいつもあたしの前に立って道を作ってくれていた。

耳を澄ませば、今でも廉の声が聞こえる気がした・・・。


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