第102話 エール。

光希「彼は僕に、初対面でこう言ってきました。」


人生一度きり。だから、俺と友達になってよ。

「合わない」と思った時点で離れてもらっても構わない。


『お試し期間で仲良くしてみてよ』


光希「勿論、そんな彼の言葉に真っ向から信じて仲良くなれる気なんて無かった。それだけ、僕の中学の時に味わった「裏切り」は心に根深く纏わりついていたから。」


廉 「でも、そんな暗闇から救い出してくれたのがこの人・・・って事?」

光希「本当に信頼が築けるまで、時間は掛かったけどね。」

柚月「嫌な過去程、何の前触れもなくフラッシュバックしたりするんですよね。」

大地「確かに。僕も中学生の頃の自分から中々抜け出せなくて、廉君と出逢うまでは前に進むのが怖かったもん。」

光希「僕もみんなと同じ人間、この三週間、緊張で生きた心地がしませんでした(笑)」

廉 「へぇー、全然そんな感じに見えなかったけどな。」

光希「でも、こうして頑張って来れたのは、彼が病と向き合い、闘い、少しでも生きようと頑張っている姿勢に心を打たれたからです。」


嫌な日もあるだろう。嫌な日が続く日もあるだろう。

それでも、あたし達はこうして生きている。

それだけで充分頑張っているんだと、あたしは思った。


光希「僕が彼のお見舞いに行った時、彼は別れ際、僕にこう言いました。」


産声を上げた瞬間から、死に繋がっている線を生きて行くのが人生。

その線の長さは人によって違う。でも、毎日短くなって行くのは確かな事。


『光希、その線を少しでも長く生きろ』と・・・。


それが、譲さんと交わした「最期の言葉」だったらしい。


光希「そして最後に。僕からみんなへ。心に留めておいて欲しい事があります。」


いじめは犯罪と同じ位、罪が重い事。

いじめや差別をする人は、心が乏しい人がする事。自分に自信がない人がする事。

自分の憂さ晴らしの為に人を傷付け、それを自殺へと追い込んでしまう事もある事。


どうか気付いて欲しい。

「言葉は時として凶器になる」事を。

どうか一呼吸置き、考えてから口にして欲しい。


その言葉は、相手にとって本当に必要かどうかを・・・。


光希「そろそろ時間ですね。カーテンを開けて下さい。それから電気も。」


眩しいくらいの日差し。

クラスを見渡すと、普段寝ている生徒も薄くなってしまったスクリーンを眺めており、この一時間、クラス全員が真剣に光希さんの授業に参加していたのが分かる。


そして、最期の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。


光希「三週間という短い間ではありましたが、本当にありがとうございました。この思い出は、僕が教師になれた時、生徒に話してあげたいと思います。本当に楽しかったです。では以上で・・・」

廉 「・・・せーのっ!!」


『光希先生、頑張れ!!』


応援の言葉と共に、クラス全員で鳴らしたクラッカー。

実は、数日前からクラス全員で話し合い、少しづつ準備を進めていた。


柚月「光希先生、これはみんなからのメッセージが寄せらせた色紙です。

それと、これは万年筆。教師になったら使うでしょ?」

廉 「ちゃんとネーム入りなんだぞ?大事に使えよ。」

柚月「そして、これは「お疲れ様でした」の意味を込めて。」


白と赤のガーベラの花束。


廉 「赤は「前向き、限りなき挑戦」。」

柚月「白は「希望、律儀、純潔」です。」

光希「ありがとう・・・みんな。」

廉 「あ、先生のくせに泣いてやがる。カッコ悪っ(笑)」


光希さんの想い。譲さんの願い・・・。

あたし達はしっかりと心に刻みました。


『次会うときは教師として、必ず戻って来ます。』


クラス全員のエールに見送られ、光希先生の実習期間は終了した。


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