第19話 仲間との約束

柚月「それじゃぁ、教室に一度戻って鞄取ったら帰りますね。」

桂太「大丈夫?少し歩き方がおかしいけど・・・。」

柚月「あたしなんかより、先生は大丈夫なんですか?」

桂太「俺は丈夫だから全然平気だよ。」

柚月「そうじゃないです。間違えてたらごめんなさい。昨日、先生泣いていた様に見えたんです。とても悲しそうな顔で・・・。」

桂太「見られてたんだね(笑)いい大人がかっこ悪いよね。」

柚月「自然に流れる涙は流した方がいいって、先生が教えてくれたんですよ?」

桂太「・・・俺ね、ずっと後悔してるんだ。勿論今も。そして、その後悔が結芽ちゃんと廉を苦しめている事も。」


「結芽ちゃんと廉に、拓の余命を隠してたんだ。」

拓との最期の約束だったから。かけがえの無い仲間だったから。

・・・簡単に破ってはいけない約束だと思っていたから。

「例え結芽ちゃんと廉を裏切る事になってしまったとしても、この約束は守りたかったんだ。」

そう、桂太先生は俯きながらあたしに話してくれた。


桂太「拓は「最期まで変に気遣って欲しく無い」「最後まで結芽と廉と笑い合っていたい」って。だから、俺は自分の奥さんにも誰にも言わなかった。」

柚月「今まで辛くなかったんですか?だってずっと一人で背負い込んで来たんですよね?」

桂太「でも、暫く経って日に日に弱って行く拓の様子を見た結芽ちゃんが、廉を連れて主治医から聞き出したんだよね。ほら、結芽ちゃん看護師でしょ?勘付いたんだと思うんだ。」

柚月「廉のお父さんは、何の病気だったんですか?」

桂太「・・・膵臓癌だったんだ。」


「膵臓癌」

初期では自覚症状が殆ど無く、早期発見は難しいと言われている。

進行のスピードは早く、廉のお父さんの場合、異変に気付いた頃には既に他の臓器にも転移しており、手術が困難と言われた。

「末期の膵臓癌」だった。

そして。廉のお父さんに言い渡されたのが「六ヶ月」という余命宣告だった。


桂太「あいつから連絡が来て、「暫く入院するから」って。最初は俺にも隠してて盲腸だとか言ってたんだよ。でも・・・、さすがのあいつも心細くなったんだろうな。「話がある」って呼び出されて。そこで初めて言われたんだよ。」


少しづつ明かされて行く過去。

それは、あたしの想像を遥かに超えるものだった。

「幼馴染み」

ずっと一緒にいたのに。側にいたのに、何も知らずに過ごして来た。

結芽さんの悲しみも、廉の想いも・・・。

そうしてあたしはこんなににも思いやりが足りない人間なのだろう。


桂太「ごめん、泣かせるつもりは無かったんだ。」

柚月「いえ、大丈夫です。」


自分が情けなさ過ぎて涙が止まらない。

それと同時に湧き上がってくる感情・・・。

「廉に会いたい」


柚月「すみません。帰りますね。」

桂太「あ、待って。」

柚月「何ですか?」

桂太先生「似てるんだよ、廉と古川さん。昔の拓と結芽ちゃんに・・・。だから話したんだ。卑怯かもしれないけど、古川さんなら廉の心の痛みを理解してくれると思ったから・・・。」

柚月「先生、あたし先生に謝らなきゃいけない事があるんです。」


「答えはどんな時も自分の心の中にある。」

自分の心に耳を傾けることなんて、今まで一度もした事が無かった。むしろ、しようとも思わず生きて来た。

いつも周りを気にしては、自分の本当の心の叫びに蓋をして。平穏な日々が送れる事だけど考えて来た。

「心のままに。思うがままに。」

答えは、簡単だった。いつもすぐ側にいたんだ・・・。


柚月「あたし、先生に思い込みの恋をしてました。」

桂太「うん。」

柚月「あたしにとって、桂太先生は歴史の担任でしか無いって気付きました。」

桂太「うん。」

柚月「振り回して、本当にごめんなさい。」

桂太「恋なんてそんなものだよ。ましてや、初恋なんてね。」


踏んだり蹴ったりの日々でいい。

繰り返す迷いも、悲しみも、悔しさも。全て時に任せてみよう。


柚月「行って来ます!!」

桂太「頑張れっ・・・!!」


保健室を後にしたあたしは学校を飛び出し、そのまま廉の家へと向かった。

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