第20話 親心

結芽「あれ?柚月ちゃん、どうしたの!?メイクもしちゃって!!」

柚月「廉、熱があって早退したって聞いたので・・・。突然すみません。」

結芽「廉、病院に行っていないの。ま、そのうち帰ってくるだろうからあたしとお茶でもして待ってない?」


松澤家のリビング。

中途半端では無く、思い切り散らかっているのが結芽さんらしい。

キッチンに向かった結芽さんは、手作り感満載の焦げたクッキーと、絶対合わないであろう梅昆布茶を用意してくれた。


結芽「柚月ちゃん、この間の件なんだけど・・・。」

柚月「この間?あ、クッキー苦っ・・・。」

結芽「桂太先生の事。廉の前ではちょっと話しづらくて・・・。あの子、うまくやれてるのかな?」


保健室での内容が思い浮かぶ。

どうして廉のお父さんが亡くなってしまったのか。

そして。廉のお父さんと桂太先生との約束。

何年もずっと守り続けて来た約束を、あたしが今ここで簡単に口にしてはいけない。桂太先生は、「あたしだから」と教えてくれた。

だから、今度はあたしが桂太先生との約束を守らなきゃいけない。

そして・・・。

松澤家の過去を、結芽さんや廉の口から知るまでは絶対に悟られてはいけない。

それを踏まえて上で、廉は勿論の事。結芽さんの力に少しでもなりたい・・・。


柚月「お互いに知り合いだったみたいで・・・。でも、仲は良く無いのかなって。」

結芽「そうだよね。ごめんね、柚月ちゃん。」

柚月「どうして謝るんですか?」

結芽「この先、もしかしたら何かあるかもしれないけど、廉を見捨てないであげてね。」


どこまで話していいのか分からなかった。

だって、既に二人の仲は険悪状態だったから。出来る事なら、仲裁に入って真実を伝えてあげたい。刺さっている心の刺を抜いてあげたい。

少しでも、楽にしてあげたい・・・。


柚月「結芽さん。あたし、好きなんです。」

結芽「・・・そう。部屋中にあるエロ系雑誌、全部本棚に飾っておいたから読みたい時読んでね。」

柚月「え、何で?そうじゃ無くて・・・。廉の事が好きなんです。」

結芽「うんうん・・・えっ!!」

柚月「勿論、幼馴染みとしてじゃ無くて。でも、まだしっくり来ないというか・・・。」

結芽「しっくり来ないからが始まりなんだよ、人を好きになるきっかけって。焦らなくていいの。」


「ガチャ」

玄関の方からドアが開く音が聞こえた。

あたしと結芽さんは会話を中断し、リビングへと繋がるドアに視線を移した。


廉 「やっぱりお前の靴かよ。お前、熱は?」

結芽「熱があるのはあんたでしょ!?」

廉 「こいつも熱があんの!!焦げたクソ不味いクッキーなんて食ってる場合じゃねーだろ。家まで送るから、帰るぞ。」

結芽「あたしの運転で送ろう!!」

廉 「それはやめよう。」

柚月「嫌だ。まだ帰らない。」

結芽「どれどれ?・・・本当だ。柚月ちゃん焦げたクッキーなんて食べてる場合じゃないじゃん!!帰りたく無いなら、ちょっと待ってて!!」


バタバタと部屋を駆け回る結芽さん。独り言を言いながら、いちいち騒がしい。

リビングのすぐ隣にある和室の部屋に行くなり、何を血迷ったのか襖を開けて二組の布団を敷き出した。


廉 「・・・何してんの?」

結芽「入院ごっこ。これ、ベットね。はい、熱出し共は横になってー!!」

柚月「結芽さん、一応看護師ですもんね・・・。」

廉 「俺の部屋でいいよ。」

結芽「この子はまた変なことばっかり考えて!!」

廉 「それはあなたです。とりあえず、腹減ったから手作りじゃ無いのが食いたい。」

結芽「あっ、じゃぁお弁当でも買ってくる・・・けど!!大人になりきれていない松茸を出すのは駄目・・・」

廉 「お願いします。早く出てってください。」


廉に追い出され、笑顔で家を飛び出した結芽さん。

家の中にはあたしと廉の二人きり・・・。


柚月「廉、ごめんね。具合、大丈夫?」

廉 「点滴もしてもらったら、だいぶ楽。お前こそ、横になってろよ。俺はソファーにいるから。」

柚月「え、大丈夫だよ?」

廉 「いいから。これでも心配してんの!!」


何となく、まだ気怠そうな廉。

あたしは廉に言われるがまま、結芽さんが用意してくれた入院ごっこのベットに大人しく潜り込んだ。





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