第21話 秘密
廉 「なぁ、柚月。」
柚月「何?」
廉 「ここに来る前・・・、学校で何があった?」
たかだか数メートルの距離。
それなのに、何故か今はその距離すら遠く感じる。
「約束」この言葉が、あたしの胸に重くのし掛かる。
柚月「何もないよ?」
廉 「じゃぁ、何で俺が早退したって分かった?」
柚月「き、教室に戻ったらまこが教えてくれて・・・。」
廉 「自分の鞄も持たずに?」
柚月「廉の事が心配で、つい焦っちゃって・・・。」
廉 「俺は「具合が悪いから早退する」なんて陣内には言ってない。」
廉の罠にまんまと嵌ってしまった。
廉は昔から聞き出し上手。何でも見抜かれてしまっていた。
どんなに言葉を組み合わせて紛らわそうとしても、簡単にバレてしまう。
廉 「柚月。俺に嘘は付くな。隠し事もだ。」
「廉を傷つけたくない。」「廉を裏切りたくない。」
重圧に押し潰されてしまいそう。
ぼんやりとするあたしの思考回路。ソファー越しで返事を待っている廉・・・。
この後、暫く無言状態が続き、お互いに何をする訳でも無くただ時間だけが過ぎて行き、あたしはいつの間にか深い眠りについてしまっていた。
柚月「・・・あれ。寝てもうた。」
目を覚ますと、あたしが横になっている部屋の襖は閉められており、微かにリビングの光が漏れていた。
柚月「どうしよう。肝心な時に寝ちゃった。話、まだ終わっていないのに・・・。廉、起きてるかな?」
その時、リビングの方から結芽さんと廉の話し声が聞こえて来た。盗み聞きをしている様で罪悪感を感じながらも、あたしは襖を開けるタイミングを待つ事にした。
結芽「明日は学校に行けそう?熱、まだ下がってないでしょ?」
廉 「行く。柚月を一人にしておけない。」
結芽「過保護だなぁ(笑)ま、今に始まった事じゃないけど。」
廉 「特に今は、目を離す訳にいかねぇんだよ。」
このまま、先へと進んで行く会話を聞いていても良いのかどうか悩んだ。
これは、あたしが寝ていて「聞こえていない前提」での会話。
親子二人の空間で繰り広げられる秘密の話・・・。
結芽「拓がいなくなって、もうすぐ十年になるんだね・・・。」
廉 「あいつが学校に来てから、柚月は変わった。」
結芽「・・・桂くんね。」
廉 「突然化粧し出したり、今まで隠し事なんてした事なかったのに。」
結芽「もしかしたら、あたしが柚月ちゃんを追い詰めてしまったのかな。」
廉 「どういう事だよ?こいつに何言った?」
結芽「まぁ、簡単に言えば、どんな事があっても廉を支えてあげてって。」
廉 「んな事言ったら、ただでさえ脳みその容量少ない柚月の頭がポンコツになるだろ!?」
柚月(心配してんのかバカにしてんのか、どっちなんだ!?)
結芽さんも桂太先生も、あたしに同じ言葉を掛けてくれる。
「古川さんなら」「柚月ちゃんなら」
あたしなら・・・。そう言ってくれた。でも、あたしが今の廉に何をしてあげれるというのだろう?
結芽「あたし、桂君に会ってみようと思ってるの。」
廉 「やめとけよ。また裏切られるだけだ。」
結芽「なんとなくだけど、拓がきっかけを作ってくれたのかなって・・・。そう思うの。」
廉 「俺は許さない。父さんの寿命がもっと早く分かっていれば、してやれる事だって沢山あったはずだろ!?」
声を荒げ出す廉。薄暗い部屋の中にいても分かってしまう。
声を震わせ、絞り出すように叫ぶ心の悲しみが・・・。
結芽「落ち着きなさい。柚月ちゃん起きちゃうでしょ!?」
廉 「何が過去のトラウマだよ。何も知らない柚月からすれば、いい迷惑なんだよ!!可哀想なだけだろっ!!」
柚月「迷惑だなんて思ってない!!可哀想なんかでもないっ!!」
結芽「柚月ちゃん、起きてたの!?」
廉 「いつからだよ・・・。」
見て見ぬ振りは、もう出来なかった。
今まで、どんな事があっても決して弱さを見せてこなかった廉が、初めて見せた涙。
「もう、後戻りは出来ない」
あたしは鼻の穴を大きく広げ、自分なりの覚悟を決めた。
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