第32話 動揺
まこ「わぁぁ!!綺麗っ!!」
光希「夏の醍醐味って感じ!来て良かったな。な?譲。」
譲 「そうだな。綺麗だ。」
会場で賑わっているお客さんの熱気と、夏ならではの暑さで身体が汗ばむ。でも心はとても穏やかで・・・。
柚月(本当に来れて良かった。まこ、いい笑顔だな・・・。)
ホッと胸を撫で下ろしていた時、隣にいた譲さんが、手にしていた食べかけのチョコバナナを地面に落とした。
柚月「あ、大丈夫ですか?」
譲 「・・・うん、平気。」
光希「譲、薬飲んだのかよ?ほら、水。」
譲 「あぁ、ありが・・・」
光希さんの手から譲さんの手へと、しっかり渡されたはずのペットボトルが、握る事なく地面にすり落ちた。
あたしは慌てて落ちたペットボトルを拾い渡そうとしたが、譲さんは眉間にシワを寄せ木にもたれかかっていた。
柚月「譲さん、大丈夫ですか?」
光希「譲、家まで送る。帰るぞ。」
譲 「目眩しただけだよ。薬飲みたいけど、光希が口つけたのはちょっと嫌だなぁ。」
まこ「あたし、水買ってくる。」
譲 「まこちゃん、ありがとう。女の子一人は危ないから光希一緒に行けよ。」
光希「あぁ、分かった。柚月ちゃんごめん、譲の事お願いします。」
柚月「分かりましたっ!!」
と、言ってみたものの、実際譲さんに何をしてあげたらいいのか分からず、気持ちばかりがあたしを焦らせる。
「どうしよう」
この言葉が頭を駆け巡っていると、木にもたれ掛かっていたはずの譲さんが、嫌がっていた光希さんのペットボトルの水で薬を飲み始めた。
柚月「・・・え?今、まこ達が・・・」
譲 「あれでしょ?今回の目的はまこちゃんと光希をくっつけよう的なやつでしょ?」
柚月「そ、それはそうなんですけど、そんな事より譲さん具合・・・」
譲 「目眩したのは本当だけど、まぁ・・・、俺も少しは貢献出来たかな?」
柚月「心配したんですよっ!?今だってまこと光希さんがいない中で、万が一何かあったらどうしようって・・・!!」
譲 「ごめん・・・、ごめんね。本当は俺、色々あって落ち込んでたんだ。でも、光希が「気分転換に」って誘ってくれて。勢いで来ちゃったの。」
「本当は、彼女と来るはずだったんだけど、振られちゃったんだよね」
空にかざした譲さんの右手の薬指には、この花火大会に一緒に来るはずだった彼女さんと、お揃いだと思われるリングが花火の明かりによって照らされていた。
柚月「そうだったんですね・・・。」
譲 「うん。でも、今日来て良かったよ。こうして柚月ちゃんにも会えたし。後は光希とまこちゃんの今後が楽しみだな。柚月ちゃん、二人の事これからも宜しくね。」
柚月「はい!って言っても、出来る限りですけど・・・。」
譲 「そして・・・。柚月ちゃんとまこちゃんに会うのも今日が最初で最後かな。」
柚月「え?」
譲 「俺ね、もうすぐこの世からいなくなるんだ。」
この世に生まれて来る者。
この世から去っていく者。
「自分の意思では、どうにも出来ない運命なんだよ。」
「でも、生きたいんだ。」
譲さんは、笑ってごまかしながら・・・、ゆっくりとあたしにそう言った。
そんな中、花火は綺麗に辺り全体を照らし続け・・・でも、譲さんの表情には切なさが見え隠れしていた。
光希「たたいま!譲、水!!」
まこ「ごめんね、柚月。遅くなって。」
柚月「ううん、大丈夫・・・。」
譲 「花火も、そろそろラストスパートかな。」
色とりどりの鮮やかな花火達が宙を舞う。
より一層会場は盛り上がり、辺りは全てを包み込むように照らし出す。
光希「譲、大丈夫か?」
譲 「大丈夫。ね、柚月ちゃん。」
柚月「・・・・・・。」
まこ「柚月?」
動揺した理由は、譲さんの事だけでは無かった。
見たかった景色の中に、見付けたくなかった姿・・・。
あたしの視線の先には、確かに廉の姿があった、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます