第25話 菜緒
桂太「よしっ、着いた!古川降りて。時間がない。」
言われるがまま車から降りたあたしは、車を停めた家のインターホンを鳴らす桂太先生をポカンと眺めていた。
そして、数秒後・・・。
家の中からスラリとした綺麗な顔立ちの女性が、笑顔で桂太先生を出迎え、その後・・・、あたしを目撃するなり駆け寄ってきた。
菜緒「あなたが柚月ちゃん?」
柚月「そうですけど・・・。」
桂太「とりあえず中に入ろう。菜緒、あんまり時間が無いんだ。」
「菜緒」
桂太先生は確かにそう呼び捨てをした。
そして、表札には「中山」という表札。
柚月「えっ。ここ、先生の自宅ですか?」
桂太「そうだよ。くれぐれも内緒でお願いします。」
あたしは桂太先生に背中を押され、家の中へと入った。
すぐにリビングへと案内され、促されるままソファーに腰を下ろすと、菜緒さんはシフォンケーキと紅茶を出してくれた。
桂太「菜緒のシフォンケーキ、美味いんだよ。食べてみて」
柚月「・・・焦げてない。」
桂太「え?」
柚月「あ、いえ。何でも無いです。」
焦げたクッキーと梅昆布茶。
とても人間の食べるものでは無かったが、今となっては遠い昔の様に思える。
菜緒「柚月ちゃん、ごめんね。無理矢理呼び出して。あたしは桂太の妻の菜緒です。ずっと会いたかったの。」
桂太「まぁ、食べながら本題に入ろうか。」
「廉と何があった?」
桂太先生の第一声が、あまりにも確認を突いた質問だった為、あたしは動揺を隠せなかった。
菜緒「あのね、柚月ちゃん。あたし達四人・・・、桂太と拓と結芽とあたし。高校が一緒でとても仲が良かったの。楽しい時も辛い時も、いつも共に過ごしてきた大事な仲間だった。だけど、拓の病気が分かって、拓が桂太に助けを求めて・・・。
柚月「二人だけの約束をしたってことですよね?拓さんからのお願いで、結芽さんや廉に悟られない様に。」
菜緒「そう。約束ってとても重い言葉でね、時には人を傷つけてしまう。拓がいなくなった後、桂太も暫く殻に篭っちゃって。そこであたしも初めて聞いたの。この話を。」
桂太「結芽ちゃんの涙が未だに忘れられないんだ。凄い罪悪感に苛まれたよ。本当にこれで良かったのかって。
菜緒「桂太から、柚月ちゃんと廉の様子はずっと聞いてたの。ここ最近二人の様子がおかしいって。」
桂太「廉は勘がいいし、古川は隠し事をするのが苦手だと思ってる。きっと俺と話した内容、悟られたんだろ?」
柚月「そう・・・ですね。」
「拓がこの世を去ってからもうすぐ十年。」
菜緒さんが結芽さんと同じ台詞を言ったすぐ後、今度は桂太先生があたしにこう言った。
「拓が運命の相手・・・結芽ちゃんと出会えた様に、お前も運命の相手にもう出会ってる事を気付いて欲しいんだ。」
そして・・・。
「拓は、出来るだけ最期まで家族との笑顔を絶やしたく無かったから、余命を隠したかったんだ。」
菜緒「あ、そうだ!!いいもの見せてあげる!」
菜緒さんが立ち上がり、クローゼットの中から取り出して来たもの。
それは年季を感じさせる一冊の手帳の様なものだった。
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