第69話 使命
光希「今から病院に向かう。」
柚月「今からですか?電話の相手は誰・・・」
光希さんが携帯で何やら文章を打ち出し、そしてその画面をあたしに向けた。
『病院から連絡。譲の容体が良くない』
柚月「譲さんがっ!?」
幸恵「譲が・・・どうかしたの?」
柚月「あ、いえ!あのっ・・・」
幸恵「ねぇ光希さん、譲に何があったの?」
『柚月ちゃんはここに残って話を聞いて欲しい』
そして。
『譲の容体に関しては、安易に話さない様に』
画面に表示される文字を読み、あたしは静かに頷いた。
そして、「病院に着いたら連絡する」との事で、あたしと光希さんは携帯の番号を交換した。
光希「幸恵さん、申し訳ないのですが用事が出来たので僕だけここで失礼します。ただ、一つだけ聞いても構いませんか?」
幸恵「はい、何でしょう?」
光希「幸恵さんは、今でも譲君を愛していますか?」
幸恵「・・・あの子を手放した私が、言える資格なんて無いんです。」
光希「資格ならあります。」
『如何なる理由があって離れ離れになってしまったとしても、譲君をこの世に残してくれたからです』
そう、光希さんは答えた。
そして、幸恵さんは声を震わせながら・・・、質問の答えを返してくれた。
幸恵「愛してます。今でもずっと。」
光希「その想い、必ず譲君に伝えます。」
幸恵「あ、光希さん。」
光希「はい?」
幸恵「出来たら、次は譲も一緒に・・・。」
光希「そうですね。出来たら・・・。」
『柚月ちゃん、後は頼んだ。』
耳元でそう囁き、光希さんは足早にこの場を立ち去って行った。
譲さんの状態がとても気になる。
でも、光希さんはあたしをここに残す選択肢を選んだ。
理由もなくこんな行動を、光希さんは決して取る人では無い。
「後は頼んだ」
そうだ。あたしがすべき事、それは・・・。
『譲さんに真実を伝えてあげる事』
柚月「幸恵さん。お話の続きを聞かせて頂けますか?」
幸恵「柚月さん。あなた、もしかして譲の恋人なの?」
柚月「え?」
幸恵「恋人の一人くらい、いてもおかしくない年頃ですもの。ここまでこうやって来てくれたという事は、そうなのかと思って。」
胸が痛む。廉の顔が頭に思い浮かぶ。
「違います」そう言ってしまえば済む事だった。
でも、真実を聞く為には・・・。
柚月「恋人です。」
幸恵「本当に?」
柚月「はい。頼りない恋人ですが・・・。だから、色々とお話を聞きたいんです。真実を全て。」
『譲は幸せ者ね。』
そう言って、笑顔を見せてくれた幸恵さんの中で、確かに感じ取った「母親」としての想い。
嘘も方便。今、この瞬間だけ・・・。
そして、あたしはこの後幸恵さんと譲さんの現在までに至る過去を聞きながら、光希さんからの連絡を待つ事にした。
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