第13話 しろしろ詐欺

廉 「とにかく、桂君はやめて俺の側にいろよ。」

柚月「ほら、言い返す言葉が見当たらな・・・うわっ!!」


突然椅子から立ち上がった廉は、物凄い近距離であたしの目の前に座り出した。

驚いたあたしは、思わす声が裏返ってしまう・・・。


柚月「な、何でしょうっ!?」

廉 「俺に恋しろよ。」

柚月「・・・は?」

廉 「桂君に恋するなら、俺にしろ。」

柚月「そんな急に言われても、廉のこと今ままでそんな目で見た事ないしっ・・・。」

廉 「今から見ろよ。」


何なんだこの男は。

グイグイ詰め寄られ、体勢を崩してしまったあたしは床に倒れてしまった。

慌てて起き上がろうとするが、廉がそれを邪魔するかの様に、俗に言う「床ドン」をされてしまった。


柚月「テンカウント?」

廉 「んな訳ねぇだろ。」

柚月「話はちゃんと聞くから、とにかくどけて!」

廉 「俺、恋と愛は別だと思ってるから。」

柚月「どういう意味?」

廉 「恋は一人でするもの。愛は二人で育むもの。そう思ってる。」

柚月「お、おっしゃってる意味がよく分かりませんが・・・。」

廉 「きっと、俺には父さんと母さんの様な恋愛なんて出来ない。でも、何でか知らないけど、お前が誰かに取られるのは嫌だ。」

柚月「おわっ、ちょっと廉さんっ!?」


廉の顔がゆっくりと近付いて来る。

退けようと思えば、金蹴りでも何でもして簡単に逃げれたはず。

なのに・・・何故だ?何故なのだ?

嫌だという感情が湧いてこない。心がくすぐったくて、何となく穏やかな気持ちになる。

次から次へと、自分の知らない気持ちが込み上げて来て・・・あたしがあたしじゃ無いみたい。


廉 「多分なんだけど。」

柚月「けど?」

廉 「俺はお前が好き。」

柚月「えっ!!」

廉 「なのかもしれん。」

柚月「対してあたしと変わらぬでは無いか。」

廉 「俺の事、好きにさせてやる。だから恋しろ。」

柚月「か、顔っ!!近い近い!!」


自然と廉に吸い込まれて行く。

これはきっと、独りよがりの想いなんかじゃ無い。

今、あたしの目の前にいる廉は「幼馴染み」の廉と違う顔。

真剣な表情で、お互いそらす事なく重なり合う視線。

あたしの唇が、ゆっくりと廉の唇によって塞がれた。

時折、桂太先生の顔が頭をよぎる。どうしても、あの表情が忘れられない。

でも、今のあたしの心は、完全に廉によって支配されていた。


柚月(そろそろ、苦しくなって来た・・・。)


ずっと無呼吸状態。初めてのキス。息継ぎのタイミングが分からない。


柚月(も、もう限界っ!!」

柚月「廉!苦しいっ」

廉 「やだ。」

柚月「タイム!」

廉 「無理。」

柚月「急にどうしちゃったの?いつもの廉らしく無いよ!?」

廉 「俺は何も変わらない。でも、もうお前の事は幼馴染みとしては見ない。友達でも無い。」


「柚月を誰にも渡さない。」

そう言った廉は、再びあたしにキスをした。


廉 「俺が怖い?」

柚月「怖いっていうか・・・。今までと余りにも違い過ぎて頭が追いつかないよ・・・。」

廉 「柚月。」

柚月「何?」

廉 「俺と付き合って欲しい。」

柚月「えぇっ!?」

廉 「いいなら柚月からキスして。嫌ならしなくていい。」

柚月「ちょっと待ってよ。廉、自分で恋とかしないってあんなに言ってたのにどうして?強引すぎるよ!

廉 「だから、嫌ならキスしなくていいって言ってんじゃん。・・・俺、思い出したんだよ。」


人間なんて、いつ何が起こるかなんて誰も分からない。

誰もが、明日という日が来る事を当たり前に感じ、当たり前に過ごせるものと思っている。

「たらればは、もう嫌なんだよ。」

廉があたしの目を見ながらそう言った。







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