第110話 楽しかった夏の日の終わり。

大地「あー!!お腹いっぱい夢いっぱい!!」

廉 「大地、何時まで大丈夫なの?」

大地「あっ、それなんだけど、ちょっと用事が出来ちゃって早めに帰らなきゃ行けないの!!」

柚月「早めって!?」

大地「次の観覧車で最後かな。」


きっと、家の手伝いか子守りをしなきゃいけないのだろう。そう思っていたあたしと廉は、特別深く聞く事もせず観覧車へと向かった。


大地「大ちゃんが廉君の横ね!!」

柚月「どーぞどーぞ。」

廉 「大地、絶対はしゃいで揺らすなよ。」

大地「え、それって前振り!?」

廉 「ちげぇよ!!大人しく座ってろって言ってんの!!」


観覧車がゆっくりとあたし達の前に現れ、廉を先頭に一人ずつ観覧車の中へと入っていく。大柄な大地君は入り込む際、思い切り頭をぶつけたが、廉はそれが笑いのツボにハマったのか、お腹を抱えて笑っていた。


大地「廉君ひどくなぁーい!?いつまで笑ってんの!?」

廉 「だってっ・・・『ドゴッ』って音・・・。観覧車へこんでねーよな!?(笑)」

柚月「たんこぶ出来てるじゃん(笑)あはははっ(笑)」

大地「揺らすよ?」

廉 「分かった。揺らすな。」


観覧車がゆっくりと上にあがっていく。それと同時に、遊園地内の建物も人達も徐々に小さく見え、視界には沢山の住宅街、そして丸みを帯びた海と地平線。


大地「今日は付き合ってくれてありがとう。」

廉 「何だよ改まって。」

大地「高校生らしい夏休み、満喫出来たよ!」

柚月「夏休みはまだ始まったばかりだよ(笑)」

大地「うん。それでも、大ちゃんにとっては最高の夏休みだったの!」


頂上に到着した観覧車。まだまだ明るい世界が見せてくれる景色はとても綺麗で・・・。

あたしは素直な気持ちを大地君に伝えた。


柚月「大地君、誘ってくれてありがとう。」

大地「何だよ改まって。」

廉 「真似すんな。」

柚月「昨日の夜の海も、お弁当も花火も。そして遊園地も。全部が楽しかった!!だから、ありがとう!!」

廉 「俺も。何だかんだ楽しかった。」

大地「大ちゃん、二人を楽しませられたって事でいい!?」


『うん。』あたしと廉の言葉に、大地君の笑顔がまるで子供の様に無邪気な笑顔へと変わった。

きっと、これが素の大地君の笑顔。騒がしいし時々自己中だし、下ネタ大好きだし。

でも・・・、それでも嫌いになれないのは『本当の大地君』を知ってるから。

優しくて家族思いで。でも、実は凄く弱くて真面目で・・・。

そんな大地君を知ってるからこそ、廉もこうして一緒にいるんだとあたしは思った。


廉 「お、もうすぐ到着だな。」

柚月「あっという間だったね。」

大地「廉君、ブス。」

廉 「何だよ?」

柚月「ブスだけど何か?」


『お似合いのカップルなんだから、ずっと幸せでいてよね。』


あたしと廉は思わず顔を見合わせてしまった。

大地君の口からは、一生出る事は無いであろうと思っていた言葉。

驚き半分、恐ろしさ半分・・・。


廉 「何かあったの?」

大地「何も!?たまにはヨイショしとかないとと思って!」

柚月「でも、嬉しい。ありがとね、大地君。」

大地「あっ、着いた!降りよっ!!」


観覧車を降りたあたし達三人は堪能した遊園地にサヨナラを告げ、出口へと向かう。


大地「じゃぁ、ここでサヨナラしよっ!!」

柚月「え?だって、帰る方向一緒でしょ!?」

大地「用事があるって言ったでしょ?」

廉 「分かったよ。大地、気を付けて帰れよ。」

大地「うん!廉君達も気を付けてね!!」


お互い別々の方向へと足を踏み出す。

何故か寂しくなったあたしは、思わず大地君を呼び止めた。


柚月「大地君っ!!」

大地「何ーっ!?」

柚月「あの・・・、あ、今日は本当にありがとう!!」

大地「こちらこそありがとう!廉君、柚月ちゃん、お幸せに!!」

廉 「柚月ちゃん!?」

柚月「あたしもそう聞こえた・・・。」


もうすぐ8月。夏休みはまだまだこれから。沢山のイベントが待っている。


廉 「ま、いっか。柚月帰るぞ。」

柚月「うん・・・。」


若干の違和感を感じながらも、あたしと廉は大地君と別れ楽しかった1日を終えた。







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