第76話 最期の想い

廉 「光希君。」

光希「ん?」

廉 「もう一人で抱え込むなよ。光希君はすげぇ頑張ったんだよ。」

光希「いや、俺はただ・・・」

結芽「譲さんは光希君がいたからここまで頑張って来れれたと思うの。」

まこ「光希、もっとあたしに頼って。頼り甲斐無いかもしれないけど・・・。」

柚月「光希さん、譲さんにとって光希さんは「家族」だったんですね。」


『ありがとう』

光希さんの声が微かに震えているのが分かる。

きっと、光希さんにとっても譲さんは家族同然だったに違いない。


「血の繋がりだけが家族じゃない」


ここにいる皆が、素直にそう感じ取れた事だとあたしは思った。


光希「最後に、柚月ちゃん。」

柚月「はい。」

光希「一番辛い立場だったよね。まこにも廉にも言えず、陰で柚月を支えてくれたんだもんな。」

柚月「光希さん。あたし、譲さんにメールしたんです。「必ず会いに行きます」って。」

光希「きっと、譲も柚月ちゃんに会いたかったと思う。」

柚月「だから、あたし今から柚月さんの所にっ・・・」


それは、とても嫌な音だった。


光希「・・・譲?」


心電図波形が平坦化していく音・・・。

そして、光希さん達が慌ててナースコールで譲さんの状態を知らせる声が聞こえて来る。


光希「幸恵さん、聞こえますか?」

幸恵「はい。」

光希「俺の携帯は今、譲の耳元にあります。あなたの言葉はきっと・・・想いは必ず譲に届きます!!」

幸恵「でも、あたしはっ・・・」

結芽「幸恵さん。落ち着いて思い出して?譲さんがお腹に宿った時の気持ち、そして産声を聞いた瞬間を。」

幸恵「私が、妊娠した時・・・?」

結芽「我が子を手放してしまった罪悪感は一生消えない。消してはいけない。でも、それと同じ位、消えない想いがあるんじゃないんですか?」

柚月「幸恵さんの今の素直な気持ちを、譲さんに聞かせてあげて下さい。幸恵さんはとても心が綺麗な人です。」


『誰も幸恵さんを責める人なんていません。』


結芽さんに優しく背中を押された幸恵さんは、一瞬躊躇したが大きく深呼吸をした後、手にしていた携帯に口を近づけた。


幸恵「譲・・・聞こえる?あなたは、今更なんだよ?って思うでしょうね。でも、私も譲の父親も譲が生まれて来た事を後悔した事なんて一度も無い。本当に幸せで・・・嬉しかった。それから、どうしても伝えたい事・・・」


『これからも、ずっと譲を想い・・・そして愛し続けるからね』


その直後だった。

『心停止』。

心電図波形が確実に平坦になった音が聞こえた。


光希「譲っ・・・!!」


光希さんの叫び声。そして、養親さん達の泣き声・・・。


幸恵「・・・譲?」


それから間も無くして。看護師や主治医の声が聞こえた後、心電図の音がパタリと途絶えた。

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