第8話 過去

桂太「落ち着いた?」

柚月「はい。色々とすみませんでした。」

桂太「いいんだよ。泣く事って、ストレス発散になるみたいだし。自然に流れる涙は我慢せずに流せばいいんだよ。」


大人の優しさ。大人の対応。廉とは違い、言葉一つ一つに重みが感じられる。

悶々としていたあたしの気持ちも少しづつ穏やかになり、心が落ち着いているのが自分でも分かった。


桂太「それにしても、廉の奴、今頃後悔してるだろうな。」

柚月「してないですよ。絶対。」

桂太「完全な八つ当たりだもん。間違いなく後悔してる。」

柚月「あたしは喧嘩したら必ず謝るんですけど、廉って昔から謝る前に笑わせてくるんですよね。あたしもバカだからそれで笑っちゃって。それで、いつの間にか仲直りして来てたんです。」

桂太「そっか・・・。廉と古川さんは幼馴染みなんだね。じゃぁ、廉のお母さんとも仲がいいの?」

柚月「結芽さんですか?はい、精神年齢があんまり変わらない感じがして大好きです(笑)」

桂太「相変わらず元気なんだな。結芽ちゃん。」


「結芽ちゃん」

桂太先生は確かにそう言った。


柚月「先生は、結芽さんと知り合いなんですか?」

桂太「うん、だって結芽ちゃんもこの高校の卒業生だもん。昔は凄く仲良かったんだよ。」


そう言いながら、切なそうに笑う桂太先生に何故か違和感を感じた。

「昔は仲が良かった」

さっきの廉の態度といい、今の言葉といい・・・。

何かがあたしの中で引っかかっていた。


柚月「今はもう仲良くないんですか?」

桂太「ある日を境に音信不通になっちゃって。そこからは全然。でも、その原因を作ってしまったのは俺だから。」

柚月「でも、結芽さんはそんな簡単に怒るタイプには見えませんけど・・・。」

桂太「生きれたはずなんだよ、あいつは。生きて、もっと結芽ちゃんや廉と過ごせたはずなんだ。」

柚月「あいつって・・・。」

桂太「廉の父親、拓だよ。俺と拓は家族よりも仲良くてさ。いつも一緒にいる位、本当に大事な親友だったんだ。」


きっと、あたしには分かり得ない程の友情という強い絆があったのだろう。

そして、桂太先生の表情をこんなにも曇らせてしまう程の「何か」が起こっていたのだろう。


柚月「もう話さなくていいです。先生の心、きっと泣いてるでしょ?それに、生徒のあたしに弱い所なんて見せたくないでしょうし。だから、もういいです。何も聞きません。」


「支えてあげたい」

素直にそう思えた。これが幻の感情でも構わない。どうしても放っておく事が出来なかった。

人は誰でも思い出したくない過去や、忘れたいのに思い出してしまう事が多々ある。そして、それを吐き出してスッキリする人もいれば、逆に己を追い詰めてしまうパターンもある。

今の桂太先生は、後者の様な気がして仕方がなかった。


桂太「ごめんね、古川さん。生徒に励まされるなんて教師失格だね(笑)何の為に公園に来たのか分からなくなっちゃったな。」

柚月「そんな事ないです。先生だって人間なんです。弱音を溢したくなる時だってあります。」

桂太「さっきは言い合いになってしまったけど、廉には幸せになって欲しいんだ。約束したんだよ、拓と。」


益々深まる謎。

でも、根掘り葉掘り聞く話では無いという事が、何となく自分の中で理解していた。ただ、とても強く伝わって来るのは「約束」を必ず守りたいという想い・・・。

それだけだった。





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