第48話 それぞれの想い

廉 「何笑ってんだよ。」

光希「お前らのやり取り、絶対両思いじゃん?下手したら、俺とまこより仲良しだと思うけど?」

廉 「全然っ!!むしろ、この女は他の男と花火大会でイチャついてんだぞ!?」

光希「だから、お前はそれが面白くないんだろ?」

廉 「面白くないねぇ。」

光希「好きなんだろ、柚月ちゃんの事。」

廉 「好きだよ。」

柚月「えっ!!」


この男、「好きだよ」だと?

砂の様にサラサラっと、「好きだよ」って?


「1+1は?」「田んぼのたー」


って言われた時と同じ位の衝撃。


光希「なら、答えは見えてんじゃん。」

廉 「好きだけじゃ幸せに出来ねぇんだよ!!」

光希「男らしくねぇなぁ、廉は。」


「余計な事考えないで素直になれよ」

今ある時間は取り戻せないし、どんなに嫌な事があっても明日はやって来る。

でも、その「明日」を迎えられない人だっている。

人間はいつ、何があるかなんて分からない。皆、様々な事を抱え、悩みながら生きている。

生きてさえいれば、マイナスをプラスにする事だって出来る。

大切なのは、少しでも後悔のない日々を送る事・・・。

「誰もがそうやって過ごしてるんだよ」

窓の外を眺める廉に対し、それでも光希さんは話を止める事なく言い続ける。

「失敗して落ち込む事は悪い事じゃない」

「それを繰り返さない様にまた歩けばいい」

そして、最後に光希さんは


「そう、お教えてもらったのを、今でも忘れてないよ」


と、あたし達に言った。


廉 「へぇ。随分立派な事言うじゃん。どこぞのお偉いさんのキャッチコピー?」

光希「拓さんだよ。」

廉 「え?」

光希「廉、自分を見失うな。過去に囚われるなよ。」

廉 「俺は柚月の隣にいる資格がないんだよ。」

光希「お前の物差しだけで勝手に決めんなよ。お前、柚月ちゃんと二人でじっくり話し合った事あるか?」

廉 「でも、俺は父さんと母さんみたいに柚月の事を・・・」

光希「お前と柚月ちゃんは、拓さんと結芽ちゃんじゃない。比べる対象じゃないんだよ。」


「お前はお前の道を歩けばいいんだよ」


廉のテーブルに雫が落ちた。

あたしも光希さんも、廉の光景に気付かないふりをした。

「じゃぁ、俺は仕事に戻るから」

そう言った光希さんは廉の頭をポンと叩き、調理場へと姿を消した。

そして、残されたあたしと廉。

あたし達は暫く無言のまま、ただ時間だけが過ぎていった。





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