第128話 拓の想い

『ちゃんと撮れてんのか?これ?』


桂太「拓だ・・・」

菜緒「結芽、大丈夫?」

結芽「拓・・・」


結芽さんの顔が歪み出す。そして、菜緒さんが結芽さんの肩に手を回し、引き寄せ抱き締めた。


入院中に撮影したものなのだろうか?黒の上下スゥエットに身を包み、ベッドの上であぐらをかきながらガサガサとカメラを調整している姿が写った。

きっと、まだ元気な頃の拓さんなのだろう。

痩せ細っては入るが、画面に向けられている笑顔が眩しい程に輝いていた。


柚月「廉、大丈夫?」

廉 「柚月、これが俺の父さんだ。大好きな父さん・・・」


髪を掻き上げる仕草や、画面の前で照れている拓さんの表情が廉に似てる。

みんなが画面の中に映る拓さんに食い入る中、咳払いをした拓さんがゆっくりと話し始めた。


拓「えーっと・・・、みんなおげんこっ!?」


結芽「は?」

桂太「拓らしい(笑)」

光希「出だしから笑いとって来た・・・。」


これが廉のお父さんの「キャラ」なのだろう。

各々、「分かってたよ」とでも言わんばかりにクスクスと笑っていた。

・・・廉を除いては。


拓「あーっと。これをみんなが観ているって事は、廉が高校生になったって事だよな。」


『廉、高校入学おめでとう』


父親からのお祝いの言葉。

廉の涙は次々に溢れ出すばかり。


拓「廉、高校生活が一番楽しいんだぞ!!女の子のミニスカートの中も覗き放題だし、タバコも吸いたいならガンガン吸っちまえ!!おまけにピアスも金髪もお父さんは許すっ!!」


結芽「こいつ、病人のくせして何ほざいてんの?」

菜緒「高校生の息子に捧げる言葉違うわぁ・・・」

桂太「そう?遊ぶだけ遊べばいずれ・・・」

結芽「拓が落ち着いたとでも?」


拓さんの言葉に論議しだす大人三人。

まぁ、確かにお父さんを崇拝している廉に対してこのメッセージは強烈ではあるが、「拓さんの経験」を我が息子に伝えたい気持ちは・・・分からない訳でもない。


拓「廉、俺はお前の母さんに・・・結芽に出逢えた事で世界観が一転した。幸せになれたんだ。今でも、俺の中で一番は結芽だ。」


結芽「・・・何言ってんの・・・」

桂太「拓らしいじゃんか。」

菜緒「一番嬉しい言葉だね、結芽。」

結芽「ずるいよ・・・。何も返事できないのに・・・」


真顔で話し出す拓さんの言葉がみんなの胸に刻まれていく。


『今だからこそ』


あたし達の心にしっかりと届く拓さんのメッセージ。



拓「廉、お前が生まれて俺の夢が全て叶った。言葉にすると安っぽく聞こえるかもしれない。ただ・・・、今こうして側にいてやれない分、敢えて言葉で伝えさせて欲しい。」


『生まれてきてくれて、本当にありがとう。』

そして。

『人生の中で起こる一つ一つの出来事全てに意味がある。でも、それはいつか自分の糧となる。』


拓「後ろを振り向くな、廉。どんな時でも前を見ろ。俺はお前の味方だ。」


生きる力と勇気を教えようとしてくれている拓さん。

泣いてる廉・・・ちゃんと拓さんの想いは廉に届いているはず。

弱みをみせない廉がこんなにも泣き崩れて。

それでも、視線は拓さんを見つめていて。

親子の絆は確かに『ここにある』。


そう思えるあたしがいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る