第80話 手紙

光希「どうしたの?」

柚月「あのね、光希さん。実は・・・。」


正直、あたしはまだ譲さんの死をちゃんと受け入れられずにいた。

譲さんは、本当はまだ病院にいて今はただ体調が良くないだけで。


『また、会えたね』


笑顔でそう言ってくれる譲さんの姿しか思い浮かばない。

でも、これを・・・この「手紙」を光希さんに渡す事で、譲さんの死を認めてしまう自分が嫌で・・・。


柚月「やっぱり、何でもないです。」

光希「柚月ちゃん、何かあるならちゃんと話して欲しい。もしそれが譲の事なら尚更。」

柚月「そう・・・ですよね。」

光希「それに、俺には守らなきゃいけない人がもう一人いるんだ。」


『まこを守る為に、立ち止まってはいられないんだ』

心にズシンと響いたセリフ。

・・・そうだった。光希さんは常に先々を考えて動く人。

どんな事があっても冷静に判断し、自分が決めた事を必ず実行して行く人・・・。


譲さんとの別れで、悲しみに打ちひしがれている中でも、恋人であるまことの未来をちゃんと考えている。

そんな光希さんだったからこそ、譲さんを最期まで看取れたのだとあたしは再確認させられた。


柚月「これ・・・。」

光希「手紙?」

柚月「譲さんと最後に会ったあの日、実は預かってたんです。俺が今いるこのベットから姿を消したら、光希さんに渡して欲しいって。」

光希「あれからずっと持っててくれたの?」

柚月「はい。でも・・・、渡す事はないと願ってました。今だってこうして手紙を手にしている事が信じられません。」


『ありがとう』

この言葉と引き換えに、あたしは少し折り目がついてしまった手紙を光希さんに渡した。そして、光希さんはのり付けされていない手紙の封を開き、一言も話す事なく読み始めた。


光希「柚月ちゃん、悪いんだけどまこと廉を呼んできてもらってもいいかな?」

柚月「まこと・・・廉もですか?」

光希「見せたいんだ。・・・あ、その前に。はい、これ。」


光希さんから差し出された一枚の便箋。


柚月「これは?」

光希「『柚月ちゃんへ』って書いてある。」

柚月「あたしに?」

光希「汚い字だけど、読んでやって。」

柚月「分かりました。その前に、まこと廉を呼んできますね。」


あたしは再びリビングへ入り、まこと廉に光希さんが呼んでいる旨を伝えた。

まこは不思議そうな表情をしながら頷き、廉は何かを悟ってくれたのか、ただ黙ってソファーから身体を起こし、二人は廊下へと出てくれた。


まこ「どうしたの?」

光希「これ。譲からの手紙なんだ。まこにも廉にも読んでもらいたい。」

まこ「あたし達が読んでいいの?だってこれは譲さんの・・・」

光希「いいんだ。俺が今から読んでいくから、最期まで聞いて欲しい。」

廉 「わかった。」

光希「俺にとって、家族同然の日々を共に過ごして来たかけがえのない仲間・・・」


『譲からの最期のメッセージだ』


まこ、廉、そしてあたしの三人を前に、光希さんの代読が始まった。

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