第67話 あの日の決断
光希「幸恵さん。落ち着きましたか?」
幸恵「・・・本当に、謝る事しか出来ないんです。」
柚月「あたし達は幸恵さんを責める為に来た訳じゃないんです。」
幸恵「譲は・・・、あの子は今日来ていないんですか?」
柚月「譲さんは今・・・」
光希「柚月ちゃん。」
光希さんが首を横に振る。
「まだ話してはいけない」光希さんの強い眼差しに、あたしはただ頷いた。
光希「譲は今、少し体調を崩していて入院しているんです。」
幸恵「入院?大丈夫なの?」
光希「はい。でも、間も無なく退院の予定なので安心して下さい。」
幸恵「そう・・・、良かった。あなた達は、譲のお友達?お名前を聞いてもよろしいかしら?」
光希「中山光希です。」
柚月「あたしは、古川柚月です。」
幸恵「光希さんと柚月さん。譲は、毎日楽しく暮らせているの?一人暮らしをしていると里親さんからお聞きしたけど・・・。ちゃんと生活はできているの?」
そう答えるべきなのか・・・、あたしと光希さんは目を合わせながら返事に悩んだ。
でも、深い根を掘り起こしてみれば、我が子である譲さんを手放したのは幸恵さん本人。それを、今更「会いたい」だなんて・・・。
あまりにも身勝手過ぎる。
柚月「幸恵さん。」
幸恵「はい。」
柚月「失礼を承知の上で聞かせて頂きます。」
幸恵「何でしょうか?」
柚月「そんなに譲さんを想っているなら、どうして一緒に暮らせなかったんですか?」
光希「柚月ちゃん!」
柚月「そんなに心配なら、何で手放したりしたんですかっ!?」
「期待するな」
光希さんから言われた言葉を忘れた訳じゃ無い。期待なんてしていない。
でも、譲さんが病気で苦しんでいる今になって、母親面をする幸恵さんにどうしても納得がいかなかった。
光希「柚月ちゃん、落ち着いて話さなきゃダメだ。」
幸恵「光希さん。柚月さんは何も間違った事を言ってないの。母親失格なのは充分分かってる。でもね、あの時は・・・」
『そうする事でしか、譲の命を守れなかったの』
深い根を掘り起こしたつもりだった。
でも、実はその根は予想以上に深すぎて・・・。
「我が子を想っていたからこそ」「愛しいていたからこその決断」
だったという事を、幸恵さんは穏やかにゆっくりと。
これまでに至る経緯を語ってくれた。
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