落陽・3


 私……確かに年齢よりも若く見られるかもしれない。

 見た目もブスではない。美女と言われるたぐいの方だろう。

 でも、遊び人じゃない。どちらかというと、身持ちが固いほうで、恋愛に真面目。その分、お高く止まっているように思われるのか、そんなにもてるタイプでもない。

 チャラチャラした男なんか、選んでいないはずなのに。チャラチャラなんかしていないのに。

 たしかに彼の心をくすぐったのかもしれないけれど、共に生きていく相手に選ばれなかった。

 そんな恋愛ばかりが、私の目の前に転がっている。


 軽い女に見られたものだ……。



 一年前も、別な男にふられたばかり……。

 

 今から思うと、私はあの時、結婚を焦っていたのかも知れない。

 二十七歳を過ぎると、三十歳までには結婚したいと思うようになった。

 彼は良いやつだったけれど、結婚なんて考えた事がなく、私のプレッシャーに推されていたんだと、今では思う。

 工藤の彼女は、プレッシャー掛けに成功し、私は失敗していた、というわけだ。


 両親にも紹介済み……。

 順調に私のペースで行けば、今ごろは結婚していたはずだ。

 

 私の子宮に筋腫があった。

 子供が産めなくなる可能性があった。

 だが、なんとか問題なくすみそうだった。


「俺さ、やっぱり子供ができないなら、結婚できないと思っていた」


 診察結果を報告した私に、彼の言葉は違和感があった。

 私たちは、喫茶店でお茶を飲み、楽しく話して……でも、心に影が……笑って話して……でも……。

 お会計を済ませて店を出る頃、私の中の影が心を全部ふさいでいた。


「子供ができないなら、私と結婚しない?」

「そりゃあ、そうさ……」

「……じゃあ、さようなら……」


 子供なんて、どうでもよかった。

 何よりも、私に対する思いやりのなさに耐えられなくなっていた。


 彼の両親は、孫の顔を見せてくれない嫁なんて、もらわないで欲しかっただろう。だが、彼はそこまで考えていたかどうか……。

 多分、私のプレッシャーに推されて、あれよ、あれよと結婚の話が進んでしまい、どこかでブレーキをかけたかったのだろう、と思う。


 彼はただ……私という重いものを背負いたくはなかっただけ。

 私、背負ってもらいたかったんだ。

 私と共に生きるために……。

 そのために生きている……そんなかっこいい言葉、嘘でもいいからほしかった。

 いや、嘘じゃ嫌だ。

 そこまで重くなくていい。


「君と結婚してもいいかな……と、思っている」


 それだけでよかった。


 

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